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甘い関係


 ドアを開けて、溜息を吐いた。週末の良い天気も、ここでは関係ないらしい。
 足の踏み場を何とか探して、窓にたどり着く。明るいと眠れないと言う男は、カーテンだけは立派な遮光カーテンを付けている。
 午前十時の陽の光。
「……ますみ…?」
 部屋の隅から声がして、ごそごそとこの部屋の住人が現れる。
「ますみ、おはよう。早いね」
 寝癖のついた焦茶の髪。黙っていれば芸能人みたいなよく出来た顔。
 これでこいつが、売れてるモデルとか芸能人とか、そんなものだったらまだ許せたのに。
「十時だ。休みだからっていつまでも寝てんじゃねえよ」
 ジャニーズも真っ青な美形。会社ではそんなふうに言われているらしいが、言わせてもらえばこいつの取り柄はそこだけだ。
 そしてその唯一さえ、活かそうとは思わないらしい。間抜けた顔で大きなあくびをする。
「てかお前、ベッドで寝ろよ」
 散らかり放題の部屋を見回して、無駄だったか、と後悔した。炊事洗濯はできるのに、掃除が出来ないのは何故なのか。理解に苦しむ。
 ポットを火にかけて、インスタントコーヒーとカップを二つ。
「うーん、いや、寝てたんだけどさ」
 沸きかけたお湯をカップの一つに注いで、牛乳を入れてかき混ぜる。
「朝方の地震で生命の危機を感じて」
 渡されたカップはぬるめのカフェオレ。猫舌なのだ。
「それで隅に?」
「うん」
 くわ…とあくびをして、目を擦る。色男も台無しだ。
「ますみ、ご飯は?」
「食った。窓開けるぞ」
 本棚で埋められた部屋に、終わりかけた夏の風が流れ込む。
「卵炒飯にしようかな…」
 台所から冷蔵庫を開け閉めする音がして、しばらくするとごま油の香ばしい匂いが漂ってくる。
 コーヒーを啜りながら炒飯もないだろうに、平気で味付けをしている。
 ベッドヘッドには最近気に入っているらしいホラー小説が積まれて、枕の横には文庫サイズのマンガが三冊。
 ぎっちりに詰められた本棚を眺めていると、
「ますみ」
 呼ばれて振り返る。ベッドに座って、おいで、と隣りを叩く。
 座ってやる義理はない。無視してカフェオレを一口。
「お前、でかい地震あったら確実に死ぬな」
「本に埋もれて?」
「圧死」
「あるかもね」
 スプーンと皿が触れ合う音の合間に、小さな笑い声。
 狭っ苦しい部屋なのに、何故か居心地は良い。もっと神経質な奴なら、この散らかりっぷりには発狂するだろうが。
「ますみ。座んなって」
「ますみますみうるせえな。名前で呼ぶなって言ってんだろ」
「じゃあ、しろ」
「誰が犬だ。白河辺だっつの」
「しろ。おいで、って」
 聞けよ、と答えて渋々隣りに腰掛けた。












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あきゅろす。
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