暗夜庭園
こちらからの連絡はしてはならない。
プライベートに過干渉してはならない。
恋人だと名乗ってはならない。
そして、彼を
束縛してはならない。
夜に開く花、とはよく言ったものだ。
年の頃は十九、二十歳。透き通るような薄い金髪と、涼やかな翡翠の瞳、それから、感情の無い頬に時折浮かぶ微笑。
「なに」
その声まで、美青年と呼ぶに相応しい。
「ごめん」
意味もなく謝りたくなる。彼はそれを全く気にしない。
彼は夜開花という店のホストだ。しかも、最高級の。
ただそこにいるだけで、ぱっと花が咲いたような雰囲気。優しくて、けれど鋭い視線。サービスに対する徹底した姿勢。
ひどく美しい、と感じる。
彼を初めて見たのは、まだその街にネオンが灯る前の、小さな公園のベンチだった。
友達だろうか。彼と同じように背の高い男と並んで座って、膝の上の野良猫を撫でていた。
夕日が落とす橙の光と、忍び寄って来る木陰の夕闇に、彼の姿は夢のように浮き上がる。
「セキ、貸してよ、次は僕の番」
「いやだね。お前、加減てものを知らないだろ」
「セキよりは知ってるよ。おいでー、クロー」
「耳とか引っ張るなよ」
「うるさいねー、セキは」
彼の友人は、その膝から黒猫を取り上げて、抱きかかえる。
セキ。それが彼の───夢のように美しい彼の、名前。
ホストクラブに男が通うのは、基本的にタブーだ。だから彼は、四つの条件を出した。
こちらからの連絡はしてはならない。
プライベートに過干渉してはならない。
恋人だと名乗ってはならない。
そして、彼を、束縛してはならない。
私はすべての条件をのんだ。
そして、彼をほんの一時、手に入れる身分になった。
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