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光、一筋の、希望。



 立ち上がる事を忘れてしまった。
 足の踏み出し方を忘れてしまった。
 どうやって声を出していたのだろう。
 誰の声も聞こえない。
 この体は、ただ底へ沈んでゆく。

 のばしたうでを、
 つかむのは、だれ。


Ray


 ゆうべ通り過ぎた台風が、道沿いの秋桜を根こそぎ倒していった。めっきり秋めいた高い空が、ビルの隙間から見え隠れする。
 昼休みに会社近くの喫茶店でコーヒーを飲むのが日課になった。カフェラテとアイスコーヒーを運んできた源川が隣りに座る。
「大した被害が無くて良かったよな」
 深い声。秋の似合う男だ。
「まあな」
 まるで普通の友達同士のような会話に、密かに苦笑する。
「裏切られるとか思わないのかよ」
 言うと、源川は真っ直ぐに目を見て、
「そんな気も無いだろう」
 そう答えた。
 全て見透かされているようで、溜息を吐いて目をそらす。

 体温の高いのを知っている。
 優しく触れるのを知っている。
 俺を抱き起こして、一歩、前へ進めと言う。
 彼の声だけが聞こえる。
 彼にだけ俺が届く。

 ひとすじの、ひかり。

 この世でただひとり、
彼は俺の








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あきゅろす。
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