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フレム・スタ

「ヘイ、起きろよ、ジロム」
 薄い布団にくるまっていた俺の背中を、ゴールドが叩いた。俺は狭いパイプベッドの上で伸びをして、起き上がる。
「置いてくぜ」



 惑星歴804年。
 二世紀前。大々的な宇宙開発の末、地球人はこの星、フレム・スタを手に入れる。
 その、火星によく似た環境や外見から、「燃える星」と名付けられたこの星には、人間が暮らせる環境を一から作る必要があった。
 まず労働力として輸送されて来たのは、更生の見込みのない犯罪者達だった。
 プラントから見る分には赤い砂と岩の荒野が広がるだけだが、一歩外に出れば、宇宙防護服なしでは生きられない。逃げ場所はないのだ。
 彼らはプラントを拡げ、シェルターを作り、次々と地下資源を掘り当てた。
 「ファーストジェネ」と呼ばれる彼ら彼女らは、宇宙という監獄に入れられながらも、地球の犯罪者よりは比較的自由な暮らしを送っていた。獄中結婚もその一つだ。
 ジュニア・バードとマチルダ・キスリングの結婚を皮切りに、次々とカップルが成立。犯罪者が拡げた都市は、徐々にその影の部分を失うのだった。

 穏やかな時がしばし流れた。
 しかし、異変が起こる。
 新市長に当選したゲオルグ・グルコスは、犯罪者達を貴重な労働力と考え、本国───つまり地球から、次々と犯罪者達を「輸入」した。
 本国では、フレム・スタはまるで天国だというのが宣伝文句であり、犯罪者でなくとも、新企業の設立や人生をやり直すなどと、開拓に積極的な「有志」が続々とフレム・スタに集った。
 結果を言えば、本国から送られて来た者達は、ゲオルグ市長の政策の元で、奴隷の様に扱われた。

「おはよう、ミセス・チェスカ」
 横に広く縦に小さい調理人、ミセス・チェスカはジロムとゴールドの皿に、山の様なマッシュポテト、アスパラと鳥肉を炒め、と置いていく。
「飯だけはたっぷりあるよな」
「もう少しバリエーションがありゃ文句ないんだが」
 ミセス・チェスカは一切喋らない。かわりに、文句がある時は持っているおたまで鍋の腹をがんがんと叩く。
「ああ、『食えるだけ幸せ』だよ、ミセス・チェスカ」
 苦笑しながら言ったゴールドは、けちな盗みでフレム・スタへ来た。地球にいるより面白そうだったから、と言う。




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