サロメ
あの方の首を下さいませ。
わたくしを拒んだあの方に、くちづけさせて下さいませ。
お前は大層残酷で、悪戯っぽい視線を向けながら俺を拒む。
「やだよ。野郎とキスするなんて」
知っているとも。
お前の体も心も、世の女達の為にある事くらい。
だからお前は二度の結婚を失敗して、三度目には
「黙れよ。黙れ」
三度目に、俺はお前の妻を寝取った。
お前は彼女が泣いて告白してからそれに気付いた。
「───悪いのは美也子じゃない。お前だ」
ああ、お前が言うなら俺はいくらだって悪人になろう。
悪戯せずにいられないお前の為なら。
「だってお前、俺が好きなんだろう?」
それが免罪符だと思っている。
ああ、けれど俺だけは。
俺だけは心変わりなんかしない。
「俺が欲しいなら、跪けよ」
王よ。
俺の愛を一心に信じる王よ。
誰がそれを裏切れるだろうか。
見知らぬ女達の為にある体と心を、俺はひたすらに愛している。
「……言えよ。…いつもみたいに」
お前にくちづけさせてくれ。
ほんの一瞬。
まばたきの間。
「───……やなこった」
あの方の首を下さいませ。
わたくしを拒んだあの方に、くちづけさせて下さいませ。
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