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愛とか恋とか

 そんなにも大好きと言う訳では無いのだ。
 どちらかと言うと、少し苦手な方で。
 何かと言うと気ままで、飄々として、掴み所が無くて……いつも気にさせられてしまう。
 それが愛しいだなんて、その時までは気付かなかったんだ。



「それって、恋じゃない?」
 公園のいつものベンチで、里見くんが言った。綺麗に流れる長い黒髪を、薄ピンクが塗られた指でくるくる絡めている。
 里見くんは公園仲間だ。私が離婚した頃、この公園でぼうっとしていると
「お父さん、リストラ?」
 そう声を掛けてきた。
 冷えた缶コーヒーを差し出されて、私は思わず受け取った。
「まあ、くよくよしないでさ。これからだよ」
 私がリストラされた会社員ではなく絵本作家だと彼女に言えたのは、小一時間程後だった。彼女は私に口を挟む隙を与えなかったのだ。
 しかし彼女にはどれだけ助けられたかわからない。
 その、信用と信頼に値する里見くんがそう言うのだ。
「だって、どれだけ迷惑かけられても可愛い、って、もう恋じゃない?」
「そうかなあ…」
「あたしはそう思うけど」
 ファッション雑誌のモデルのバイトをしている里見くんは、すらりと長い足を投げ出して、茂みにいた野良猫を見つけると、ちちち、と舌を鳴らした。
 猫は、距離を測りながら近付いて来る。私は目を合わさない様に顔を伏せた。
「舘木さん、呼んでよあの子」
「里見くん…」
「ねえねえ。お願いー」
 私は異様に、そう、異様にとしか言い様が無い程猫に好かれる。
 捨て猫を拾う確率も高い。おかげで実家は猫屋敷と化している。
「あ、行っちゃった…」
 残念そうな里見くんの声に、少しだけほっとする。
 と、里見くんが急にすっと立ち上がった。置いていた鞄を抱えると、見上げる私に短く
「じゃあ、また明日ね」
 言って、ひらりと制服の裾をなびかせた。
 公園の入口に、背の高い男の姿がある。里見くんはその男を避ける様にわざわざ迂回して公園を出て行った。
 くすんだ金と赤茶の斑の髪。耳には上品な金色のリングピアスが四つ。
「舘木さん、偶然だね」
 おとなしめの服なのに、全身から威圧の雰囲気がする彼───トラくんがそう、にっこり笑った。





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あきゅろす。
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