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身近な恋



  身近な恋


「正常性バイアスって言うんだって」
 彼との会話には脈絡もなにもあったもんじゃない。
「………何が」
「イレギュラーな事態が起こった時に、これは現実じゃない、みたいになんの。だから、地震とか火事とかで逃げ遅れる人が出るんだって。こないだテレビで心理学の先生が言ってた」
 長い台詞を一気に言って、彼は満足そうな顔で、どう? とばかりに俺の顔をうかがい見る。それからにっ、となつっこい犬みたいに笑った。
「でも俺は大丈夫だなあって思うんだ」
 俺は氷が溶けて薄まったアイスコーヒーをむやみにストローで混ぜる。
「だって俺には斎藤がいるから、何があっても斎藤といれば大丈夫だなあって」
 俺は、ただ呆然と彼を見つめるしかできない。彼はまたにへらと笑う。
「斎藤も、俺がいるから大丈夫」
 大丈夫なわけあるか。
 彼に俺がついているのはともかく。
「な」
 まるで、世紀の大発見でもしたように胸を張る。
「二人でいるなら、大丈夫だよな」
 だから、大丈夫じゃないって。
 思うけど。

 思うけど。







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あきゅろす。
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