まぶしいくらいの
それはまるでおとぎ話の様な。
それはまるで美しい絵の様な。
だいたい十八くらいだろう、と薬くさい老人が言ったのを彼は覚えている。
痩せ過ぎだが病気ではないよ、少し太らせてやらんとな、と笑ったのを彼は覚えている。
「名前は?」
彼を薄暗い部屋に連れて来た二人の男は、彼に温かい飲み物を出すとそう訊いた。
彼は甘い匂いのするココアの湯気の向こうから、ただじっと二人を見つめ返すだけ。
「…とりあえず、それを飲んでしまって、それから、お風呂に入ろうか」
風呂。彼はゆっくり頷いて、ココアを一口啜った。二人の男は顔を見合わせて、
「お風呂は好き?」
栗焦茶の髪にパーマをかけている方の男が、優しい声で訊いた。
「泡のが」
それが、二人が初めて聞いた彼の台詞だった。
「……泡風呂好きなのかな」
「泡風呂にしといてあげて、リク」
「了解」
パーマの男が部屋を出て行ったが、彼はそれにも無関心な様子でココアに集中している。
「……名前は? 何て呼ばれてたの?」
彼は視線だけを男に向けた。
深い黒の瞳。伸びっ放しの蜂蜜色の髪が、真っ白な頬の辺りに影を落としている。
「…好きに呼んでいい」
「え?」
「……なんでもいい」
男は参ったな、と少し俯く。
「じゃあ、僕がきみに、名前をつけてもいい?」
彼は興味薄げに、またココアを啜った。
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