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-調査編-

大理石彫りの縞村という表札。それが掲げられた家の前に、何台ものパトカーが横付けされている。

「つまり、アンタ方の話を総合すると、こういう事か?
『帰ってきたら、知らない誰かが自分の家の庭で死んでいた』」

揃って仲良く頷く奇妙な目撃者二人に、警部の菊地原 周造(きくちはら しゅうぞう)は渋い顔をした。今年で50歳になる彼は年齢以上に老けて見える顔を歪め、背後の部下を呼ぶ。

「おい、鈴木!」

呼ばれた相手は、二十歳半ばの若者だった。先輩の刑事に何か教えて貰っていた彼は、菊地原に呼ばれたと分かると直ぐに飛んできた。

「はい! 警部、お呼びでしょうか?」
「ああ、この二人の話を詳しく聞いてくれ。何か分かったら俺か東(あずま)を呼べ」
「はい、分かりました!」

若い刑事の明朗快活な様子とはかけ離れた男、つまり隣に座る雇い主を璃々子は見た。
場所を室内に移された今、現場の庭には警察の人間が行き交い、此処からでは彼のお目当て――つまり、死体が良く見えない。そのせいかさっきから苛々と、窓の方を何度も見ていて鬱陶しいのだ。

「博士、落ち着いて下さいよぅ、第一発見者は博士なんですから、しっかり証言しないとぉ」
「誰だ、警察なんて呼んだ奴は。私の楽しみを奪って満足か!」

目の前に警察が居るのに、酷い言い草である。彼らの正面に腰を下ろした新米刑事の鈴木 遥也(すずき はるや)は、愛想笑いを張りつけながら、愛用の手帳を開いた。
しかし、そこから目のやり場が分からない。

向かいには、豊かな胸元につい目が行ってしまう、ピンクのメイド服の美少女が愛らしい顔で、こちらをじっと見ているのである。
目が合えば顔が熱くなるのを感じて、思わず視線を逸らす。と、そこには髪を白と黒に色分けた――まるで、白黒スイカだ――白衣の男が、物凄い勢いで自分を睨んでいる。

「ええーと、では繰り返しになるとは思いますが、もう一度発見当時の詳しいお話と、お二人の事についても少しお伺いしたいのですが……」

最終的に自分の手帳を見る事にした鈴木刑事は、おずおずと切り出した。答えたのは美少女の声だ。

「私が買い物から帰ってきたら、博士が玄関脇で何か見てたんです。いっつも色んな事に無関心な博士だから、珍しいなぁと思って。で、何かと思ったら男の人が死んでてぇ」
「それは何時ごろですか? 大体で構いませんが……それと、すみません、お名前を……」
「あ、高嶺璃々子です。このお家の家政婦やってるんですぅ。……時間は、16時ごろ、かなぁ?」

なんて下手な聞き方だろうか。璃々子の声を聞きながら、内心自分に失望していた鈴木刑事は、ちらりと上げた視線の端で、笑顔で答える少女を目撃し、思った。
可愛い。

「刑事さん? どうかしました?」
「あ、いえ。それでその、博士、というのは……?」

頭を切り替えて姿勢を正した彼は、向かって左の男を見る。まだ睨んでいる。その細身の体を覆う白衣に眼鏡は、まさしく「博士」のイメージだ。

「そうです、私の雇い主の縞村寿郎さんです。って、博士ぇ、自己紹介ぐらい自分でして下さいよぅ」
「ふん、璃々子くんが勝手に始めたんだろう。そもそも私は協力するとは一言も云っていない」
「でもぉ、警察に協力するのは市民の義務ですよ」
「……ならば君、鈴木君といったね。私は君の質問に答えよう。だが君も、私からの質問に答えて貰おう」

何故そんな考えになったのだ。鈴木刑事は良く分からなかったが、博士の異様な迫力に押されて頷いていた。

「わ、私で答えられる範囲なら……」
「よし、では先ず誰が警察に通報したのだ」

お前から先に質問するのか。鈴木刑事は思ったが、彼は流されやすい性格をしていた。

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あきゅろす。
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