after... B
意外と素直に、向かいの席に座った少年は、さっさと一人でホットケーキを注文した。
さっきの悲壮感は何処へやら。
すっかり、奢ってもらう気でいる少年の、あまりの無用心さに、僕は要らぬ不安を抱く。
「大丈夫。悪い事しようとする人間は、もっと賢いから」
そういって笑う嫌なガキと、下らない会話をしている間に、僕の注文したアメリカンコーヒーと、彼のホットケーキが机の上に並べられた。
「……あれ、親友に預けたんだ」
突然、向かいの席から声が聞こえた。
おもむろに、彼が、もそもそとホットケーキを食べながら、呟き始めた。
「そいつ明日、転校するんだ」
僕は、飲もうとしていたコーヒーの手を止めた。
ぼそぼそとひどく聞き取りにくかったが、僕は黙って耳を澄ました。
「俺ら、幼稚園から一緒で、仲良くて」
彼は、机に置かれた地図に視線を落とした。
「ここに、二人の宝物を埋めて、あいつが俺のこと忘れないように、俺もあいつのこと忘れないように、二枚、地図描いて、渡したんだ」
一枚ずつ持っていたのかと、僕は聞いた。彼は、俯き加減で、肯いた。
僕は、何も言わなかった。
それで、なぜ彼があれほど僕を睨んだのか合点がいった。
彼は、僕がその親友から地図を奪ったと思ったのだろう。
だが僕は、そんな事をする人間ではない。
そいつだって、今頃探しているかもしれない。そう言うと、彼は頭を振った。
お前に心配させたくなくて、言おうとして、止めた。
この地図の状態を見れば、誰だって思う。このしわは、丸めて捨てたものだ。
「……なんで」
ぽつりと落とされた言葉が、痛かった。
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