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after... D

「……お前が大人になったら、分かるよ」

「分からないよ。ニートにならないから」

そんなもの、僕だってなるつもりはなかった。

だけど、気付いたら。

「気付いたら、こうなってた」

「何それ。だっせぇ」

「うるさい」

そうだ。本当に、だっせぇ。
ダサくて、情けなくて、かなわない。
でも、ここにしか、この位置しか、僕には残されていなかった。

世界は、どんどん変わっていく。僕は、輪の外に弾かれたのだ。

ふと小学生の頃にやった、大縄跳びを思う。流れに乗って入れば良いのに、僕はどうしても、タイミングが掴めずに、最後まで怖気づいていた。

「……なあ。お前は、大縄跳び、すんなり入れるの」

いきなりの質問に、彼は訳分からないという表情を浮かべた。

「入れるに決まってるじゃん」

「そっか」

うん。それならニートにはならないだろう。なんて、不確定な予想をして、僕は頷いた。



結局、雨は降らなかった。

それからしばらくして、薄暗い夕暮れの中、僕らは再び小学校の校門前にいた。


「これ、どうする」

僕は、丁寧にしわを伸ばした地図を、少年の目の前に出した。

彼はそれを見つめてしばらく考えると、ゆっくり首を振った。

「おじさんが持っててよ」

驚く僕に、彼は言った。

「いいんだ。俺、信じてるから」

強い瞳で、彼は言った。
僕は思った。やはり彼は、僕のようにならないのだろう。

「そいつとは、六年後にまた、ここで会う約束をしたんだ」

そして彼は、まだ覚えてたら、おじさんも来ていいよ、と。何を埋めたのか、見せてあげる。

僕は、微笑んで首肯した。

「よろこんで」

未来の待ち合わせを、交わした。

ではそれまで、僕は何をしていよう。六年後、僕は何をしている。

取り敢えずはバイトを続けて、暇な時は、あの高架下で、時間に置き去りにされた物たちを、眺めて暮らすのだろう。

けど、その先は。

今更になって雲間から覗く太陽に照らされて、彼のランドセル姿が小さくなって行く。

その彼が、最後に小さく手を振った。

僕は残された宝の地図を持って、大きく手を振り返した。
 
今日、変わらないものもあったが、変わったものもあった。
明日はどうだろう。

その、もっと先は。

日暮れ時。
汚い紙を道の真ん中で広げて、ニヤニヤ笑う僕を、買い物帰りの主婦が、不審そうな眼で見ていた。




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活水女子大学主催「第三回 活水文学賞」
優秀賞受賞作品

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あきゅろす。
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