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敏感肌

びゅうびゅうと休まず吹き付ける北風が、コートを揺らす。

あたしは寒さに震えながら、マフラーを引き上げた。首だけじゃなく、顔半分も埋もれるように。

痛いまでの寒さ。冷たい外気で感覚のなくなった皮膚が、ちりちりと繊維に反応する。
寒い寒すぎる。このままでは凍える。

あたしはぶつぶつと文句を言いながら、隣を無言で歩く幼馴染の彼を見た。

学校からの帰り道。
バスを待つ時間がもったいないから、歩こうと。こいつが馬鹿げた提案をしたのが、十数分前。
それに乗ったあたしも、相当な馬鹿だ。

どんよりした寒空の下。無言で歩く二人の横を、乗るはずだったバスが、悠々と通り過ぎていく。

「あ」

思わずこぼれた、非難がましい声。
そいつはあたしを振り返ると、何だよと眉を寄せる。

「行っちゃったじゃん、バス」
「だから? 良いだろ別に。後少しなんだし」

こいつの言うことも、もっともだった。この坂を越えれば、じき駅に着く。乗車賃、二百円も浮いた。

不精不精頷いて、あたしは視線を前に戻した。けど、なぜかそいつはあたしを見たまま。
横断信号も赤で。

耐え切れず何、と聞くと、そいつはいきなり指差した。

「それ」

視線は、あたしの首元に向かっている。不審に思って手をやると、痒みにも似た痛みが走る。

ああ、これか。

さっきマフラーをずらしたから、見えてしまったんだ。
あたしは彼が見ているだろう、赤い腫れを想像して、何でもないと言い放った。

「あたし、敏感肌なの。だから、ハイネックのセーターとか着ると、すぐに赤くなって」

昨日も、と言いかけた声が詰まる。

彼の、手が。
彼の手が不意に伸びて、首筋に。

先ほどと同じ痛痒さが、走る。それとは別の、冷たい感触。
彼の指の、冷たい感触。


あたしは咄嗟に首をすくめていた。
驚きに、声が出ないでいるあたしを、面白そうに眺めたそいつは唇の端を引き上げて、一言。

「へえ、敏感なんだ」



信号がやっと青になって、彼は何事もなかったように歩き出した。



その背を見ながら、あたしは寒さとは別の意味で震えていた。



あああ、あたしの馬鹿。


敏感なのは、肌だけで十分だ。

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