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真夜中の逢い引き 後編

彼女をこんな風にしたのは、僕だ。

流行り病で死んだ彼女を、僕は甦らせた。
苦渋の決断だった。ロクでも無い結果になる事は理解していた。
それでも、急に静かになった家にも、一人の朝にも、耐えられなかったのだ。僕の中には、彼女の笑い声も暖かな眼差しも、握った手の感触も、全部、生きていたから。
だから、死んだなんて、嘘だろう?

そしてある夜遂に、墓を掘り返して彼女を蘇らせた。
彼女は目覚めた。
ただし、元のような人としてでなく、他人の魂を喰って生きる化物として。
目覚めた彼女はとても悲しんで絶望して、もう一度死のうとしたけれど、失敗した(あるいは、もう死ねないのかもしれない)。

僕はといえば、衰弱していた。彼女は術者である、僕の命を吸って甦ったのだ。
だから、僕は死ぬわけにはいかなかった。
僕の命を削って生きる彼女の為にも、何としてでも生きなければいけなかった。

しかし、彼女はその事実を知ると、とても嬉しそうに笑った。
絶望していたのが、嘘のように。
そうして僕に触れ、ほほ笑んだ。

「一緒に死にましょう?」

僕には、その後の記憶が無い。

そして気付くと此処に居た。この暗く狭い屋根裏に、閉じ込められていた。
彼女は夜の12時になるとやって来た。
そうして、
まだ生きるの? 
まだ死なないの
と、僕に囁くのだ。

彼女は死にたいのだ。けれど僕は、生きたいのだ。
彼女と一緒に、生きたいのだ。
僕らの平行線。緩やかに続いていたそれも、時間の問題だろう。
僕は随分弱っている。限界が、近付いている。
きっと、僕が死ねば彼女も死ぬだろう。
そうであれば良いと、願っている。
でなければ、彼女は。

僕は、彼女の冷たい身体に腕を回した。

ああ、神様。今更だといって笑うかもしれない。
けれど。けれど、どうか。
彼女が。
一人ぼっちになりませんように。
僕が目を閉じて神に祈っているなんて、知らないだろうに、彼女は僕を抱きしめ返すとひっそりと吐息を零して笑う。


ずっと、一緒よ。


End.

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あきゅろす。
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