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雀 後編

「どうして? ねえどうしてお兄ちゃん」

どうしてこの子は死んじゃったの。
僕はその度に繰り返す。

「仕方ないだろ。きっと頭の打ち所が悪かったんだ。……でも良かったじゃないか。もう、痛い思いをしなくて済む」

だけど僕の妹は、こんな綺麗事じゃあ納得しない。何度だって尋ねるんだ。

どうしてどうして、どうしてと。

「昨日までは元気だったのに。普通にバタバタ、籠の中を飛んでいたのに」
なんで。
そして、また涙をこぼす。

 ああ。知るかよ、そんなこと。僕は吐き捨てたい気分だ。
知るかよ、鳥の事情なんざ。僕は早く部屋に戻って、友達から借りたマンガの続きが読みたいんだ。だから早く。

「もう充分悲しんだだろ。こいつ早く埋めて、部屋に戻ろうぜ」

 そろそろ我慢の限界だった僕は、雀の塊に手を伸ばした。しかしその腕を妹が掴む。

「ダメ! 埋めちゃダメ。絶対ダメ!!」
「はあ? なんでだよ。死んだモンは埋めるだろ」
「でもダメなの! だって可哀想だもん! 暗い穴に一人ぼっちで……」

可哀想。かわいそう。カワイソウ。

 どうして、と同じくらい繰り返されるその言葉。泣き止まない、妹。

 訳が分からない。こんな、たかが鳥の死体一つで、一体何が可哀想だというのか。確かに僕も、朝起きて雀が死んでいるのを見た時はショックだった。けど、それだけだった。
ああ、こいつも死ぬのだと。

 どこかで何かが死んでいる、僕らの生きている世界。それが日常だ。
テレビやニュースで見る、人々の争い。事故。殺人。例えば近所の道路で猫が轢かれたり、僕らが蟻や目に見えない生物を潰して殺して此処に立っていたりするようにソレは今も、続いている。
 きっと、この先も。



 目の前できらきらと、光を受けながら頬を顎を伝い、服や地面に吸い込まれていく水晶のような涙が、俯く妹の澄んだ瞳から零れ続けている。

 そんな事を考えていた僕は、その光景に訳も無く、じわりと胸の奥に湧き上がる衝動を感じた。

どこまでも透明な水。

 無性に波立つ心が、妹みたくどうしてと口にしそうで、僕は気付けば必死に唇を引き結んでいた。


妹の漏らす嗚咽だけが続く庭先。

無機質で平等な日の光が飛び散る中、僕らはかつて雀であったモノを前に、いつまでも立ち尽くした。

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