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after... A

「おじさん、何してるの」

不審に思っているのが、はっきり分かる口調だった。

しかしそれよりも僕は、おじさんと呼ばれた事に、ショックを受けていた。そんな歳じゃない。


「おじさんじゃ、ないんだけど」

少年は、無言で僕を睨みつけた。
どうやら、先の質問に答えるまで、僕を見張るつもりらしかった。

「僕はここの卒業生で、今日はたまたま、母校を見学しに来たんだよ」

「こんな平日に、暇なの? おじさん、ニートってやつ?」

おじさんは、譲らないらしい。僕は苦笑して、フリーターと言ってくれ、と答えた。

「ふうん。ニートなんだ」

ニートも、譲る気はないのか。
そもそも、ニートとフリーターでは、意味が違うのだが、彼に理解する気はあるのか。

「質問には答えたから、行って良いかな」

「だめ」

即答だった。警備員でも呼びそうだ。

勢いに思わずたじろいだ僕の服を、さっと近寄って掴んだ少年は、突然叫んだ。

「それ、俺の。返して」

少年の手は、しわの寄った、汚れた地図に伸びていた。

「これ、君の物なのか」
「そうだよ」

「何の、地図なの」

「教えない」

「……返して欲しかったら、何の地図なのか、教えてよ」

「おっさんには関係無え。返せよ」

「……あのなあ、普通の大人だったら、ゴミと思ってこんなの捨てるぞ。けど、僕はそれを拾ったんだ。お礼ぐらい言えよ。それに、何の地図か教えてくれたら、返してあげるよ」

大人げなく言い合っていると、自分でも分かっていた。本当にこれが、成人した男の言葉か。

しかし少年の反応は意外だった。

拾ったの、と驚いて僕を見上げる。

頷けば、彼は呆然と、僕の足を踏み台にしてまで手を伸ばしていたのが嘘のように、小さく礼を言った。

「……それ、どこにあったの」

「高架下の、草むらの中」

「そんな、所に」

僕の答えに、衝撃を受けたのか、少年は黙り込んだ。  

このままでも気まずく、僕は思い切って、彼を近くの喫茶店に誘うことにした。

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