LOVESONG
01
高野春は、6歳の誕生日を祝う賑やかな誕生会に満面の笑みを浮かべていた。春の父親は仕事の関係上帰宅する時間が遅い。何とか仕事を切り上げる時間を早め帰宅し、午後7時に全員顔をそろえ誕生会が始まった。始めは幼稚園や音楽教室の仲間を呼ぼうかと家族で相談をしていたが、幼い子供を遅い時間に集め解散させるわけにもいかない。高野家とご近所の近藤家、2つの家族が揃いささやかながら賑やかな誕生会が開かれた。高野家の長男である慶介は誰よりも賑やかに口を動かし、豪快にテーブルに並ぶ料理を口に頬張っていた。
「慶ちゃん、そんなに急いでたべたら喉につまらせるわよ」
春の母親が苦笑いを浮かべ、優しく慶介に声をかける。
「こら、慶介。そんなにひとりでがっついてちゃ、春くんの分がなくなっちゃうぞ」
慶介の父親も続いて口を挟む。ぽかっと軽い力で慶介の頭を拳で叩いた。慶介はべーっとわざとらしく舌を出すと、構わずに料理を口に運ぶ手を動かしはじめた。
「だって春のやつぜんぜん食べないんだから、俺が春の分もたべてやってんだー」
「うん!ボクもうお腹いっぱい!慶ちゃんがたべてるの見てる方が楽しいや」
小食の春は既にテーブルに箸を置き、頬杖をついてニコニコと慶介を眺めている。二人の様子に親達は肩を竦めた。
 元気で活発な慶介に、大人しい性格の春。対象的な二人だだが、親たちの交流の宛ら、二人はいつも行動を共にしていた。春は慶介に幼いながらに羨望を抱いていて、慶介も時折苛めるような態度をとりながらも、春を守るように手を引いていた。慶介と春の両親たちは大学時代の仲間でとても親しい間柄だった。近所に住居を構えたのもその為だ。それこそ赤ん坊の頃から二人は一緒に遊び、幼稚園の場所は口をそろえて二人一緒がいいのだと懇願した。朝は一緒に幼稚園へ行き、園内での仲間内に必ず二人の顔があり、帰ればまた二人で遊ぶ。あまりの仲のよさに両親たちは閉鎖という不安感を時折覚えたりもするが、基本的に二人の様子を微笑ましく眺めていた。
「ねえねえ春ちゃん、幼稚園やリンネのお友達からのプレゼントは何だったの?」
お腹がいっぱいになったのか、うとうとし始めた春に慶介の母親は笑顔で尋ねた。
「んーとね、リンネではたっちゃんが車でね、」
春は満面の笑みで答え始めた。席を立つとプレゼントを両手いっぱいに抱えそれぞれのものに対し説明をしていた。
 リンネとは春と慶介が3歳の頃から通っている音楽教室である。二人の両親は音楽大学時代にプロの歌手という同じ夢を追いかけた仲間だった。大きく抱いたビジョンは叶えられることもなく、今こうして幸せな家庭を持ち不自由なく生活している。夢はあきらめたが、諦めていない夢でもあった。子供たちを歌の道に進めたい。二人の家族はまたしても同じ夢を抱いていた。リンネには3歳からの学科があり、児童向けのユーモアのある楽しいプログラムでありながら本格的な指導をしてくれる。何より、紅白出場歌手を輩出しているということもあり、音楽教室といえど芸能スクールと引きを取らない充実した教育方針があった。過去にプロを生み出したというプライドがそうさせたのだ。両親たちは子どもを生まれる前からリンネへ二人を通わせようと話してもいた。
音楽をよく聴きよく両親達と唄を歌い育った二人はリンネをとても気に入り楽しんでくれて、仲間との団結力も築いてくれているようだった。
「でね、ごうくんはケポモンでね…」
春のプレゼントの紹介も終わりに差し掛かったとき、慶介は机の下に伏せて白い包み紙を体の後ろに隠しながら春の元へ近いた。次から次へ出てきた春の言葉がやむと、慶介は春の正面へ出て大きく息をすった。慶介の口からでたものはおめでとうという言葉ではなく、聞いたことのないメロディーの唄だった。春、おたんじょうびおめでとう、そういった歌詞が歌に含まれていた。めちゃくちゃなメロディーと歌詞が慶介の自作の曲だということを伝えている。春はうるうると涙を含みその唄を聴いていた。唄が終わると一歩春の前へ近づき、体の後ろに隠していたものを乱暴な手つきで差し出した。
「これ、やる!」
春の前に差し出したそれは飛行機のオモチャだった。春は慶介がそのおもちゃをとても大事にしてことを知っていた。慶介はよくそのおもちゃを持って遊んでいたし、春が貸してほしいと願っても決して手渡すことはしなかった。小さな鞄に入るほど小振りな飛行機だが、そのフォルムは慶介の心を掴む何かをもっていたのだろう。慶介がとても大事にするものだから、春もその飛行機が好きで手に入れたいと思っていた。春はうるんでいた瞳を一層ときらきらさせ飛行機を眺め、その後は思いっきり慶介に抱きついた。
「ありがとう!慶ちゃん!ありがとう!」
慶介は何も言わずにぽりぽりと頬を爪でかいた。
「ごめんね。慶介のお古で…。新しいプレゼントを買うつもりだったけど慶介がこれにするんだってどうしても聞かなくて」
慶介の母親は春の母親に困ったようにそういった。
「いいのよ。春のあんなにうれしそうな姿今までみたことないもの」
いつもはわんわんと声をあげてよく泣いている春だが、今日のそれは静かなものだった。春の表情には幸せが満ちている。もうすぐ二人は小学校へ通いはじめる。通う小学校は一緒でも、一緒のクラスでなくなるかもしれないと慶介に母親は伝えたら慶介はだだをこねた。今こうして自分の大切なものをプレゼントしたことが、彼の小さい心で何かを感じていた証拠だ。
「はやいねえ。もう小学校になるなんて。また二人はべったりなのかしらね」
春の母親は困ったように笑った。
「ね。大人になっても一緒だったりして。二人で音楽ユニットなんか組んで」
「ふふ。どっちにしろ私たちがお願いしなくとも音楽の道に進んでくれる気がする」
長身の慶介と小さな春、凸凹コンビを両親は交互に眺めた。春と慶介の笑い声はずっと続いていた。

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あきゅろす。
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