短編小説 10:素敵な未来を君と(完) ※微 「・・・ほーら、翔太。起きろって」 「ん・・・?は、・・・るか?」 「クク、正〜解。翔太の素敵な旦那様の、な?」 蕩けそうなほど甘い声はこの、爽やかな春の朝には些か不似合いだ。 しかし彼ら2人にはこれくらいが丁度いいのかもしれない。 出会ってすぐに恋が始まって。 思い返せば、未来を約束したのもそれからすぐのことだったように思う。 ―――高校卒業後翔太は俺に永久就職 だなんて、冗談めいた。でもそうでもしなけりゃ言えなかった恥ずかしい台詞だったけど、今もこうやって一緒にいるのだからいい思い出だ。 高遠遥、18歳。三上翔太、同じく18歳。 ほんの数週間前から始まった2人だけの新生活。 甘い、甘い・・・自称“翔太の素敵な旦那様”曰く、新婚さんなのだから、ついつい空気も甘くなってしまうというもの。 「寝てる翔太も可愛いけどさ、早く起きて“おはようのちゅー”しよ」 「う゛〜・・・まだ、眠い・・・」 しかし、どうやら可愛い奥さんは朝が苦手なようだ。 未だベッドから起き上がろうとしない可愛い奥さん・・・と呼ぶには些か疑問が残るが、素敵な旦那様の遥にとっては可愛くて仕方がないらしい。 “う”に濁点をつけたような低い唸り声を上げる翔太と言えば目こそ閉じられていてその、人一人殺せそうなほどの眼光の鋭さは分からないが、不機嫌そうに眉間にはいくつも皺が寄せられていて、“ちょっと怖いけど男らしくて素敵”と評されることがあっても、間違っても可愛いだなんて呼べるような寝顔ではない、のにだ。 「はぁ・・・っ。いつ見ても可愛い寝顔だこと」 うっとりと溜め息を吐くほど、語尾にハートが付きそうなほど可愛くて堪らないものらしい。 恋は盲目というか・・・遥の趣味がマニアックというかなんというか。 逆にベッドで半身を起こし、顎に手を突いた状態で翔太を覗き込む遥といえば高校時代“王子”と評されていた爽やかで甘いマスクはもちろん健在。少年から青年へと成長を遂げた彼には大人の魅力がプラスされ、類を見ないほどの美青年へと成長を遂げており、翔太が気を揉むことも多いのだが・・・それは今この時には関係のない話だ。 とりあえず今は、この眠り姫に起きてもらわないことには始まらない。 しかし、困ったことに翔太の寝起きの悪さはある意味一級品。 一緒に暮らす以前から翔太が朝弱いことは知っていたのだが、“起こす”という行為。これが中々に大変だと身にしみている遥である。 「そろそろ起きないと・・・悪戯・・・しちゃおうかな〜?」 「ん゛〜?」 しかし、それも旦那の特権。幸せの1つと元来前向きな遥はそう感じていて、今朝もまた素敵な美貌が台無しなにやけた笑みを浮かべているというわけで・・・。 いそいそと未だ呻き声を上げるだけで起きようとしない翔太の体から薄い掛け布団を剥ぎ取り、 「う・・・わっ。これは視界の暴力でしょ、翔太君」 露になった翔太の一糸纏わぬ姿に一瞬昨夜自分がそうしたことも忘れ、遥の口からは思わず漏れたのは感嘆の声。 元々の骨格がしっかりしているのだろう、太くしっかりとした鎖骨には昨夜残した自分の痕がしっかりと刻まれていて、遥はそれに満足そうに笑みを深くする。 「これ見たら翔太の奴、真っ赤な顔して・・・でもきっと怒りはしねぇんだろうな。なんたって、翔太は俺のこと愛しちゃってるもんなぁ?ん〜?」 鎖骨の他にも、筋肉の浮き上がった張りのある胸や綺麗に割れた腹・・・とその痕を指先で辿りながら遥は誰に聞かせるでもなく自然と口をつくのは惚気。 触れる度にぴくぴくと反応を返す出会った当初から感度良好な体に満足しながら、しかしこれくらいじゃ起きないことはこの数週間で立証済みだ。 どことなく嫌そうに顰められた翔太の顔に笑って、その体を撫でていた指先で意外にも弾力のある頬を突いてみる。 「ほ〜ら、翔太〜起きろ。今日は1限から授業の日だろ?遅刻はあんなに嫌だから1回でやめてって言ってたくせに・・・・・・うわぁ、それにしてもこの感触癖になる」 「ゔ〜」 ぷに、ぷにという頬の感触はなかなかに気持ちがよかったらしいが、寝汚い翔太を起こすにはこれも少し甘かったようだ。 更に顔を顰めるだけで一向に目覚める気配はなく、相変わらず険しい顔で唸り声を上げるだけ。 「はは・・・さて、そろそろ本気で起こさねぇと。昨日は往復ビンタで起こしたけど、あれはほっぺが痛そうで可哀想だったし。一昨日は目覚ましと携帯のアラームを耳元で鳴らしまくったんだったな。でも、そのあとは耳鳴りがずっと続いて俺も大変だったし。その前はベッドから落として・・・ああ。涙目になってたのは可愛かったけど、痛いだろうし。その前は・・・」 こんな翔太の眠りの深さは物音一つで起きてしまう遥からすれば羨ましいを通り越して呆れてしまうほどで、若干笑顔が強ばってしまったのは致し方ないだろう。 でも彼曰く“可愛い顔”で気持ちよさそうに眠る恋人・・・もとい新妻を無理やり起こすのは忍びない。 それでも1日中寝かせているわけにもいかず、大学生の彼らには授業だってある。 というのは建前で、寝てる翔太より起きてる翔太の方がもっと可愛いからというのが本音だろうが。 「はぁ・・・こんなに起こし方にバリエーションがある奴もなかなかいねぇよな。でも、痛くなくて翔太にも俺にも優しい起こし方って・・・」 しかし。何の犠牲もなく、すんなり起こすというのはなかなか難しいかもしれない。 「やっぱり・・・“アレ”しかないよな」 そう、あの方法以外は。 ニヤリ、と人の悪いを浮かべた遥はどうやら何かのスイッチが入ってしまったようだ。 「ご開帳〜ってか」 徐に足下に移動したかと思えば、この台詞。 自分に突っ込みとも言えない突っ込みを入れつつ、何をするかと思えば・・・言葉通り。 翔太の無造作に投げ出された膝を立たせ、無遠慮にもそれを左右に割り広げさせた恰好・・・そう、所謂M字開脚というやつである。 「・・・わっ、翔太、エロ・・・っ」 しかし自分でしたというのに、思いの他衝撃があったらしい。 ゴクリ、と喉を鳴らした遥の視線の先にあるのは朝立ちだけではなく、先ほどのライトな愛撫にも反応したらしい翔太の雄。 すっかり頭を擡げて、裏側を晒している様に自然と笑みが深くなってしまうのは夫として致し方のないことだろう。 「持ち主と違ってお前は早起きみたいだな?全く、翔太も見習ってもらいたいぜ。なぁ?」 だが、その雄に話しかけるのは如何なものか。 「・・・え?お前をもっと起こせば翔太も起きるって?なるほどな」 突っ込み役不在のまま、勝手にも会話を成立させた遥は“よくできました”とばかりに雄の先端を撫でてやるが、子供じゃああるまい。 当然、きゃっきゃと嬉しそうに声を上げることもなければ、照れたように笑うこともなく、 「ん・・・っ」 と、持ち主である翔太が少し瞼を震わせたくらいで、またそれは朝日が眩しいとばかりにきつく瞑られてしまう。 それでも何か感じるものがあったらしい。 「・・・フッ。可〜愛いの」 目を細め、翔太の寝顔を見つめる遥の顔は幸せそう。 吸い寄せられるように唇に触れて、でもおとぎ話のようにはいかないのが現実問題。 王子のキスで目が覚めるなら、既に何十回でも何百回でもやっている。 だから趣向を変えて。 「ほら、早く起きなきゃ朝飯俺が全部食っちまうぜ?・・・こんな風に」 再び体を起こした遥は、唇から顎、首筋、鎖骨、胸・・・と、上から順に翔太の体をはむっと甘噛みしていく。 キスがダメなことは立証済み。なら、さらにその上をいくまででしょう? 唇で食むようにしながら、時折敏感な場所に歯を立ててやれば大袈裟なほどに体が跳ねる。 「んんっ」 少し反応を示していた雄は既に先端から透明な先走りを溢れさすほどに成長しており、口を笑みの形に変えた遥は、そのままそこをぱくんと銜えてしまった。 「ぁ、ああっ!」 それに半分寝ていたはずの翔太から悲鳴のような嬌声が上がるが、そんなことはお構いなしだ。 銜えたまま敏感な先端の窪みを舌先で擽ってやれば、びゅくんっと先走りが溢れて、口内に苦味が走る。 「や、はる・・・っ!お、起きてる!起きてっから・・・ぁ!」 堪らず、どうやら途中から狸寝入りだったらしい翔太が声を上げるが、そんなことお見通しだったらしい。 「う〜ん。やっぱりこのくらいじゃ起きねぇよな?お前もそう思う?」 「は、遥ぁ」 意地悪にも自分の存在をスルーして再び雄へと話しかける遥に、翔太の普段は釣り上がり気味の眉もハの字になってしまうというものだ。 しかし、そんな可愛い可愛い奥さんにメロメロな旦那の意地悪が続くはずもなく。 「・・・ぷ、なんて顔してんだよ、翔太」 すぐに破顔して、寝癖のついた頭を撫でてくる遥に、翔太は寝起きのせいだけではなく浮かんだ涙を乱暴に拭った。もう、寝たふりなんてしないと誓って。 「ゔ〜」 「よし、ちゃんと起きたな。朝飯の準備出来てるから顔洗って、歯磨いておいで」 悪戯っ子の笑顔から、優しい旦那様の笑顔になった遥にほっとして、でも・・・と翔太は自分の姿を見下ろす。 意地悪な遥は少し困るけれど、そんな遥だって大好きなのだ。だから悪戯が始まっても寝た振りをしていたのに、結局は自分の堪え性がないせいで体は中途半端に煽られたまま。 そんな自分が先を強請るのははしたない気がして、でもどうしたらいいかが分からない。 いつだって遥が欲しい以上の物を与えてくれるから、翔太は強請り方を忘れてしまったのだ。幸せな悩みというものである。 「翔太?ほら、早くしないと授業遅れるよ」 「え・・・ああ」 優しく促されて、頷いたはいいもののこの熱を持った体をどうしたものか。 そう悩んだのは一瞬。 モジっと膝を合わせて小さく溜息を吐た瞬間、堪え切れなかったように遥がむしゃぶりつくように覆いかぶさってきて、そんな悩みは一瞬で霧散してしまった。 「ほんと、翔太はオネダリ上手だよな」 「ぅあっ!・・・な、にが?あ!」 開放を求めて震えている雄を通り越し、昨夜の行為で僅かに色づいている後孔に舌を這わせながら、遥はそんなことを呟く。 言われている意味が分からないと、喘ぎながらも疑問を口にする翔太に、 「そこがまた可愛いんだけど」 なんて的のずれた答えを返す遥はやっぱり少し意地悪かもしれない。 でも。 「・・・大好きだよ、翔太」 そう囁く声は飛び切り甘くて、翔太はいつだって少し泣きそうになるのが不思議で、でもとっても幸せで。 「んんっ・・・俺も、好き、だ」 この先もずっとこんな風に一緒にいられる未来を願わずにはいられないのだ。 fin ------------------------ * あとがき * ふわー!!!長い間、本当お付き合いありがとうございました!!!! これにて遥×翔太さんのお話は一区切りさせていただきます。 サイト開設1ヶ月目くらいからの連載ですので、気付けば1年8ヶ月・・・。 本来なら1年前には連載終了予定だったはずなのですが、長々と申し訳ございません;; いつもお越し頂いている皆様、ここまで読んでくださってありがとうございます! コメントもたくさんいただいて、本当励みになりました(*´ェ`*)ポッ これからもマイペースにですが頑張っていきたいと思いますので、よろしくお願いします!! 次回拍手お礼小説は異世界王子×男前天然タラシ攻めです。 なんかまた変な設定ですいません・・・男前天然タラシ攻めが受けって意味分からん← 次回作詳細 [*前へ][次へ#] [戻る] |