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短編小説
1-2
 初めの頃こそ勇もその声に耳を傾けてにやけてみせたものだが、それが毎晩のように続けばうんざりするというもの。

否、欲求不満になるというもの。だ。

 別に勇がモテないとか、恋人がいないとかそんな理由ではない。

引っ越して暫くは大人しく、このボロアパートを満喫しようと思っていたところにこれじゃあ堪ったもんじゃなかった。

 それは別に見栄でも何でもない。

現に彼には彼女ではないが常に不特定に付き合っていた人はいたし、今だって「やらせろ」といって電話をかければやってくる相手は掃いて捨てるほどいるのだ。

若専務で金持ちの彼に天は二物も三物も与えていたらしい。

 少し優男の印象を与える顔は誰もが男前だと言うほどに整っていたし、身長だって人混みに混じれば頭一つ抜きん出るほどに高い。

その少し薄い唇から紡がれる甘い声は誰をも魅了し、思わずなんでも言うことを聞いてしまいたくなるような響きを持ってしていた。

 そんな非の打ち所がなく、そして性格だって温厚だと言われる彼もこの騒音は流石に辛抱ならなかったらしい。

彼の隣の部屋は角部屋だから勇以外に迷惑を被る相手はいなかったし、その下は空き家だ。

加えて言えば2階建てというこのアパートで、被害を被るのは彼だけだということだ。

 当初大家さんに部屋をすぐ下に移してもらおうかと考えたが、1階は湿気も多くあの台所のギャングの発生率も高いと言う。

だとしたら2階の別の部屋に移動すればいいのだが、それはそれで負けるような気がして今日まで過ごしてしまった。

 今の時刻は夜の11時。

本当はもっと早くに行きたかったのだが、隣人が帰宅するのは決まって10時半頃だったし、おっ始めるのはそれから1時間くらいしてからだ。

相手も夕飯を食べないといけないだろう。

変なところで気の回る勇は、必然的に11時に隣人宅へ向かわないと行けなかった。

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