愛と平和、それと君
「いっってぇぇぇぇ!!!」
政宗の悲痛な叫びとともに奥州の夜は明けた。
love and peace,and you.
主の部屋の前で、入れ違いに出ていく医者に頭を下げた。
「失礼致します、政宗様」
「入れ」
静かに戸の開く音がして、政宗の目に映ったのは呆れたような小十郎。
まあ、それもそのはず。
「お加減は如何ですか」
「大分いいぜ。……起きるのは無理だけどな」
視線の先には情けなく布団にうつぶせになる政宗。ばつが悪いのか小十郎から外した視線が泳いでいる。
病名、ぎっくり腰
悲鳴の後真っ先に駆けつけた小十郎はその事実に、安心していいのか叱っていいのか分からず閉口してしまった。
「まったく…何故ひとりで箪笥を持ち上げようなどとお考えになったのか…」
「Ah…………急に模様替えがしたくなったんだ」
嘘。あの箪笥はいつか成実が持ち上げて見せたもので。自分の力はどのくらいか試してみたかったなんて死んでも言えない。
ため息をついた小十郎はもう何もつっこんではこなかった。
「とにかく、腰は癖になります。完治するまで決して無理なさらぬよう」
「OKOK、分かったよ」
「早く治さないと政務がたまりますよ」
その視線の先には既に山のように積み上がった書類達。運悪く(いつものことだけれど)ここ数日サボり続けたツケが回ってきたようだ。
「Shit…」
せっかく治るまでは仕事をサボれてLuckyとか思ったのに、それどころではないらしい。
「どうせ仕事をサボれるとか思ってらしたんでしょう」
「っ!…ばかそんなわけねぇだろ、はは…」
本日2度目の見え透いた嘘。口ではそうですか、なんて言ってるがくすくす笑われると見透かされてるみたいで恥ずかしい。
「Oh!忘れるところだった。小十郎、これ頼む」
あの医者忙しいとかって貼ってかなかったんだ、とそばに置いてあった湿布を小十郎の方に滑らせた。
「分かりました。では失礼致します」
「おう」
心なしかその声はいつにも増して明るい。
「政宗様、腕を袖から抜いて頂けますか?」
仰向けにさせてそう問うと、何も言わずに両腕を上に伸ばしてきた。その仕草は子供が親に服を脱がせてもらうときのそれと同じで。
小十郎が苦笑いを浮かべながらも腕をとると満足げに微笑む。
普段何だかんだで政宗には甘いが、それでもやっぱり厳しい小十郎に堂々と甘えられるのが嬉しいのかもしれない。
可愛らしい、などと迂闊に口を滑らせて暴れられてはさらに腰を痛めかねないため何も言わなかったが。
やがてはだけさせた肌は、やはり傷が目立つ。元々色白だから尚更かもしれない。
胸、腕、腹に散らばるそれらは主の美しさを減らすには足りないが、それでもこれでもかとばかりに各々が自己主張している。
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