愛のために おでかけイコーナ6 「ランボさんあっち見たい!!レイナス〜〜!!」 「だ〜め。危ないから飴食べてから!」 「じゃあレイナスにあげる」 「そんなどろどろの舐めかけはいらないよ……」 都合がいいランボにレイナスがげんなりと返す。 ランボはう〜、と唸るとガリガリと飴をかみ砕いた。 「終わったもんね!」 「はいはい」 レイナスは苦笑いしつつランボの手を離して残った割り箸を受け取る。 「ぐぴゃーーーー!!レイナス、このソルシッチャ大きいぞーーー!!」 フランクフルトを見つけはしゃいで駆けていくランボにくすりと笑みをこぼすと、レイナスはゆっくりした足取りでランボの後を追った。 と、そこに屋台から声がかかった。 「よう!レイナスも来てたんだな!!」 「あれっ山本!」 「随分楽しんでるみたいじゃねえか」 「獄寺!」 「やっと会えたな」 「っリボーン!!!」 姿を見るなりレイナスが泣きながらリボーンに飛びつく。 「よかったあ……見つかった……!! 勝手にいなくなってごめんなさい!!」 「無事で何よりだぞ」 安心しきった顔でリボーンに頬を寄せるレイナスだが、ふと屋台越しに綱吉の姿を認めてあっ!と声を上げた。 「ツナまで!僕に内緒で何やってるの!?」 自分からリボーンを引き剥がしたのはまさか、と眉を吊り上げるレイナス。 綱吉はあわあわと手を振った。 「ご、誤解だって……!」 尻込みする綱吉の後ろから、獄寺が不機嫌そうに声を上げた。 「お前も手伝いやがれ」 「何を?」 きょとりとするレイナスに山本が快活な笑みを浮かべて答えた。 「売り子だよ。俺達チョコバナナ売ってんだ」 「へーー!チョコバナナ!」 改めて屋台に目を向けたレイナスだが、綺麗に整列するバナナを見てこて、と首をかしげた。 「……チョコは?」 「美味しく食べてもらうために注文受けてから塗ってんだ」 「そうなんだ。でもチョコが塗ってあるやつを出してた方がいいんじゃない? これよりもみんなが持ってるやつの方がおいしそうに見えたよ」 率直に告げるレイナスにそれぞれがほう、と反応した。 「なるほど」 「やっぱり買う側の意見は貴重だな!」 そんなやりとりをしているうちに周りの屋台がざわざわ騒ぎ始めた。 「なんだろ……」 騒ぎの方を振り向くレイナスの横で見知らぬ男が綱吉達に声をかけた。 「お前らもショバ代用意しとけよ」 「ショバ代!?」 何それ!?と顔を引きつらせる綱吉に獄寺が説明する。 「ここらを取り締まってる連中に金を払うのが並盛の伝統らしいっす! ここは筋を通して払うつもりっす」 ザッと足音を立てて何者かが綱吉達の前に姿を現した。 その気配に一同はそれが例の組織だと悟る。 「五万」 「えええええ!!?」 「雲雀さんーーー!!?」 ギョッとして叫ぶレイナスと綱吉。 雲雀はレイナスの姿を認めると眉間にしわを作った。 「なんで君がこんな所にいるの」 「えっ……何でって言われても……」 改めて聞かれてレイナスは少しうろたえる。 そんなレイナスをずいと押し退けると獄寺が雲雀に啖呵を切った。 「てめーー何しに来やがった!」 「ショバ代って風紀委員にーーー!?」 「活動費だよ」 しれっと答える雲雀。 「払えないなら屋台を潰す」 薄く笑う雲雀の横では、実際に抵抗した屋台が破壊されていた。 山本が暴れ出しそうな獄寺を押さえながら風紀委員に金を渡す。 「確かに」 受け取りながら、雲雀はちらりとレイナスに目を向けた。 レイナスはどこか緊張した面持ちで雲雀の動向を窺っている。 雲雀はプイと顔を背けてそのまま無言でその場を去った。 「ふぅ〜……難は逃れたって感じ?」 「な、なんかものすごくあっさりしてたね雲雀さん」 「そーっすね。忙しかったんじゃないっすか?」 不思議そうに言う綱吉に獄寺が適当に答える。 それを聞いてもなおうーん、と首をひねる綱吉のもとに、明るい声が届いた。 「チョコバナナくださ〜い」 「京子ちゃん!ハル!」 「すごーい、お店してるの?」 「う、うん」 「でもちょっと残念です、みんなで花火見ようって言ってたので」 「そーだね」 「なぁ!?」 ショックを受ける綱吉の横で、レイナスがチョコバナナを2本、スッと2人に差し出した。 「え?でも……」 「さっき京子ちゃんのお兄ちゃんにお世話になったから、そのお礼と思って」 「わあ、ありがとう、レイナス君!」 「ハルもいいんですか!?」 ニコニコとチョコバナナを受け取る美少女2人にレイナスも釣られて嬉しくなる。 その様子にケチをつけるのは無断で商品を持っていかれた獄寺だった。 「てめー勝手に!!絶対店手伝えよ!?」 「ハハハ、いいじゃねーか2本くらい」 わめき散らす獄寺を横目に京子とハルはヒラヒラと手を振った。 「じゃあ頑張ってください」 「またね」 「あ、バイバイ」 2人を見送った綱吉にレイナスがねえ、と訴える。 「ね、僕も花火見たいんだけど」 「手伝えっつってんだろーがっ!」 楽しむことしか頭にないレイナスに獄寺が再び牙をむく。 山本はそれを宥めるようにこう提案した。 「全部売っちまったら花火見に行けるぜ」 「はっ!!」 それを聞いて綱吉も俄然やる気を出した。 花火を見たいのは綱吉も同様であった。 「が、頑張って早く終わらせちゃおう!」 「十代目のお望みとあらば!!」 「浴衣が着れてお店ができて花火も見れる!お祭りってすごい楽しいな〜」 「そういうことは売り切ってから言え!!」 ふふふ、とご満悦の笑みを浮かべるレイナスに獄寺はチッと舌打ちを打った。 綱吉の望みを叶えるべく、大声で回りの客に呼びかける。 「買えやコラァ!!」 「ちょっ、獄寺君!?」 「……僕が売るから獄寺は裏方に回ったら?」 獄寺の接客スキルの低さにレイナスと綱吉はそろって冷や汗をかいた。 「チョコバナナいかがですかーー?」 イタリア仕込みの対人用スマイルでレイナスはそう宣伝した。 「わっ!素敵!」 「買ってこ!」 普段の2割増しの笑顔にどんどん客が集まってくる。 「す、すごい!人が引き寄せられるように!」 驚く綱吉にレイナスが得意げに笑ってみせた。 「ふふっ、こういうのは恥ずかしがったらだめなんだよ。ほら、ツナも声出して!」 綱吉を肘でつつくレイナス。 その横で山本も順調にチョコバナナを売りさばいていった。 「あい、二つね」 「お兄ちゃんにありがとうって」 「ありがとーー」 山本の接客態度は正に理想的と言えるだろう。 二人の功績は大きく、チョコバナナはすさまじい勢いで消費されていく。 「あれ?また来てくれたんだ?4本目じゃない?」 「ハイ!!ここのチョコバナナは最高です!!」 「わっ!ありがとー!! 聞こえた?獄寺!おいしいってーー!」 「この距離で聞こえねーわけねえだろ!」 「ごめんねー、獄寺素直じゃなくって」 「はい、3本です。おまたせしましたー!」 「おにいちゃん、ひとっちゅ、ちょうだーい」 「ぼくのバナナまだー?」 「あいよー!ちょっと待ってねー!」 「す、すごい……!」 4人が夢中になって働いていると、終わりが見えるのは早かった。 「バナナあと一箱で完売っす!」 「えっ、もう?早かったねー。花火間に合う?」 「余裕だよ!」 ガッツポーズを決める綱吉。 それを聞いた山本が悪い、と声を上げた。 「5分ほど外していいか?毎年屋台のボールの的当てしてんだけど、それやらねえと祭り来たって感じがしなくてさ」 「いいよ、今みんな御輿みてて人が少ないから」 「景品持ってくっかんな」 笑って快諾する綱吉に山本が自信たっぷりに告げて去っていった。 獄寺もそのタイミングで十代目!と声をかける。 「すんません!自分もトイレ行ってきます!」 獄寺と入れ替わるようにしてやって来たのはリボーンだ。 「レイナス、俺と踊るか?」 「えっ!!」 その申し出にレイナスが爛と目を輝かせる。 しかし一人残すことになると思い当たりハッとして綱吉をうかがい見た。 綱吉は構わないよと手を振った。 「大丈夫大丈夫、任しといて!」 「ありがと!」 レイナスは嬉しそうに笑ってリボーンについていく。 そうしてしばらくたった頃、綱吉が1人になったのを見計らい、人影が突如屋台を襲撃し売上金を引ったくっていった。 「コ……コラーー!!」 綱は懸命にひったくり犯を追った。 「えっ、えっ……! リボーン……日本のダンツァ、うまく踊れないよぉ……」 「すぐ覚えられるぞ」 振り付けが分からずに四苦八苦するレイナス。 他の人の振り付けを見て覚えようとしていると、レイナスは人の輪の外で何やら全力で走って行く綱吉を見つけた。 「リ、リボーン!ツナが……!!」 何やら様子のおかしい綱吉の姿にレイナスが慌ててリボーンに呼びかける。 「ん。追うか。ゆっくり歩いていいぞ」 リボーンは動じずにそう言ってレイナスの腕に納まる。 レイナスは去って行った綱吉に気を取られ知らない人間にぶつかってしまった。 「わっ!?」 「ああ?てめー何してくれるンだ?」 「ご、ごめんなさい……」 自分の不注意であったため大人しく謝ってその場を急ごうとするレイナスだったが、それを肩を掴んで止められてしまう。 「待てよ。謝っただけで済むと思ってんのか?」 唇の端を歪めて言う男にレイナスは不愉快そうに眉をしかめた。 今は急事なのだ、こんな事をしている時間はない。 「リボーン、先に行って」 レイナスはリボーンを降ろそうとするが、リボーンは応じずに腕の上で男と向かい合っていた。 「お前こそ気安くレイナスに触れてんじゃねーぞ」 「あああ!?何だこの赤ん坊!殺されてーのか!!」 「それはこっちの台詞だぞ」 リボーンは目にもとまらぬ速さでレイナスの腕から跳びあがり男の顔面に一発食らわせる。 「ぐわあああ」 「うわあああ」 男は悲鳴を上げて倒れた。 それに重なるようにレイナスの喜びの悲鳴も上がる。 「リボーンかっこいい〜!」 噛み締めるように口元に手をやるレイナス。 うっとりしたその視線を微塵も気に留めず、リボーンはさっさとレイナスを促した。 「行くぞ」 「うん!」 レイナスが再び走りだす。 その後ろではなぜか再び男の悲鳴が聞こえていた。 「この階段の上かな……」 「レイナス、静かに」 リボーンがパッとレイナスの口に手を当てた。 思いがけない接触にレイナスはドキドキと頬を赤らめる。 「だいぶ数が多いな……」 気配だけで察したらしいリボーンが呟いた。 先についたはずの綱吉は大丈夫だろうか、とレイナスは階段を上がろうとしないリボーンをチラチラと窺い見る。 そんなとき、下の階から声がかかった。 「そんなところで何をしてるの」 レイナスもリボーンもよく知る人物であった。 「ひ、雲雀……!!」 「よくここがわかったな。見てたのか?」 「別に」 雲雀はそう素っ気なく応えると、上の騒ぎを聞きつけムッと眉を顰めた。 「上に何かいるね。群れるやつは噛み殺す……」 「あっ、雲雀!!」 フラリと階段を昇っていった雲雀を見てリボーンがそう言った。 「俺達ももう少し近づくぞ。 危ねえから見つからねーようにしろよ」 「う、うん……」 頷いて近寄ってみると、上からバキッと何かを殴りつけたような音がする。 レイナスはひょっこりとそこを覗き込んだ。 「嬉しくて身震いするよ。うまそうな群れを見つけたと思ったら、追跡中のひったくり犯を大量捕獲」 「雲雀さん!!」 「んだっ!?こいつは」 「並中の風紀委員だ」 「集金の手間が省けるよ。君たちが引ったくった金は風紀が全部いただく」 雲雀は凶悪な笑みを浮かべてひったくり犯と対峙していた。 それを見ていたレイナスがヒッ、と顔を青くする。 「やっぱりあいつ全然風紀守ってないよね!?」 「雲雀らしいな」 綱吉も同様にギョッとした顔で雲雀を眺めている。 ひったくり犯達はまだ余裕の態度を崩さずに言った。 「ムカつくアホがもう一人。丁度いい、中坊一人仕留めるために柄の悪い後輩を呼び過ぎちまってな。やつら力持てあましてんだわ」 「何人いるのーー!?」 「加減はいらねえ!そのいかれたガキも絞めてやれ!!」 わーーっと男達が一斉に綱吉と雲雀に襲いかかる。 レイナスは思わずリボーンの名前を呼んだ。 「リボーン!いくら雲雀とはいえこの人数はまずいんじゃ……!?」 「心配いらねえぞ。お前は巻き込まれねーようにだけ気を付けてればいい」 リボーンは至極冷静にピストルを構える。 「俺達はボンゴレファミリーだぞ」 ズガン、死ぬ気弾を打ち込んだ所で、下の階からパタパタと足音が聞こえてきた。 「レイナス!リボーンさん!」 「大丈夫か!?」 「山本!獄寺! 今、ツナと雲雀が……」 「すごい事になってんなあ」 言いながらも山本の笑みは崩れない。 「雲雀だあ!!?どういう事だよ、たく……っ!!」 獄寺は境内の様子に悪態をつくと、バッとダイナマイトを着火してその騒ぎに足を踏み入れた。 「たかが中坊二人だ!一気に仕掛けろ!」 叫ぶチンピラ男の声を掻き消すように、獄寺の放ったダイナマイトが爆発する。 「十代目!!」 「助っ人とーじょー」 颯爽と現れた2人を目にしチンピラ達は益々怒りを募らせる。 「気にくわねーガキ共がゾロゾロと」 憎々しげに零すチンピラを横目にリボーンが口を開く。 「雲雀と初の共同戦線だな」 「冗談じゃない。引ったくった金は僕がもらう」 「なあ?」 極当然のように言い放った雲雀に山本がピクッと反応する。 「やらん!」 「当然っす」 綱吉達は競うように次々と男達を伸していく。 それを見てリボーンはレイナスに声をかけた。 「レイナス。お前に少し仕事を頼むぞ」 「え……?」 [*前へ][次へ#] [戻る] |