幻の君
2
家に帰ってきたその次の日。
電話で言っていたはずなのに、どうしてだかクリフトさんが訪ねてこない。
その日のうちには姿を見せず、結局彼からコンタクトがあったのは翌日のお昼だった。
「どうして昨日こなかったんですか?」
開口一番に責め立てる。
もし今日連絡がなかったら直接クリフトさんの屋敷に乗り込もうと思っていたところだ。
そんな僕の様子にクリフトさんがうろたえた声音で話す。
「す、すまない、急に外せない用事が……」
「連絡くらいしてください」
「…………すまない」
珍しいこともあるものだ、と思った。
クリフトさんは、自分が忙しいときは僕に仕事を押しつけるだけ押しつけてそのまま自分の用事に取りかかってしまうような、そんな人だった。
おかげで仕事の概要がよくわからず試行錯誤でそれをこなしたこともある。
しっかり謝ってくれているんだからいいか、と僕は軽くため息をついて話を流す。
「それで、その仕事はいつにするんですか?」
「ああ、じゃあ来週、迎えに行ってもいいかな?」
「……はい、構いません」
珍しい。
そんなに長いこと仕事を持ってこないなんて今までにはなかった。
どうやら相当忙しいみたいだ。
僕は電話を切ると、とりあえずアネーゼさんの様子を見に行くことにした。
アネーゼさんは単身で孤児院の子供引き取りを育てる、気立てのいいおばさんだ。
最後に僕が会ったとき子供は6人で、一番上の子が5歳になったくらいだった。
ドアのチャイムを鳴らせば懐かしい顔の少女がひょっこりと顔を覗かせて、僕に気がつくと満面の笑みで家の中へと迎えてくれた。
アネーゼさんたちは変わりなく元気に過ごしていた。
子供達も健やかに成長しているみたいだった。
「昔は2、3歳が6人だったからね。今は荷が降りた感じだよ」
アネーゼさんはそう言って朗らかに笑う。
子供達も精一杯アネーゼさんのお手伝いをしているみたいで、僕の出る幕はなさそうだった。
持っていった食べ物を冷蔵庫の中に運んで、みんなでお喋りをして、夕方になって僕はアネーゼさんの家を出た。
「やっぱり問題はお金ですね……」
まだ小さな子供がいるから、アネーゼさんはお昼には働けない。
色々な人がアネーゼさんを支援しているけど、それでも七人の生活はギリギリみたいだ。
アネーゼさんは確かに元気そうだったけど、前にくらべて更に細くなっていた。
もちろん貧困に困っているのはアネーゼさんだけでなく孤児院の子達もそうだ。
早めにこの街を出た方がよさそうだ、と思った。
お金は有るところからしか持ってこれないのだ。
「……何かご用ですか?」
街を離れたところで僕は誰にともなく声をかける。
辺りには誰もいないが、遠くから誰かが僕を見ていたのを感じたのだ。
それは今日に始まったことではない。
気がついたのはハンター試験を終え家に帰ってきたときだった。
僕の家は静かで人気のない場所にある。
だからこそ、僕を覗き見る誰かの気配は浮いていて察しやすかった。
警戒して歩けば街中でも僕を違和感のようなものが追ってくるのを感じた。
これは黒だと確信し、人気のない場所で僕はその視線の主に声をかけたのだ。
けれど相手はなかなか姿を現さない。
さっきまで感じていた違和感までもがサッと消え、何だか不気味に思い更に強い口調で呼びかける。
「もういるのわかってますから!
殺すつもりとかじゃないなら早く出てきてください!」
辺りに僕の声が響く。
相手がどこにいるのかわからない以上攻撃を仕掛けられたら僕が生き残れる可能性は低い。
僕は焦りながら辺りを睨む。
はぁ、とため息が聞こえ、街の中から誰かが姿を現した。
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