文芸部の日常 〜オープンハイスクール一ヶ月前〜
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時折、向かいの校舎の開け放された窓から流れて聞こえてくる、演奏練習をしている吹奏楽部の楽器の音が、ここが高校であるということをいい感じで演出しちゃっているのも乙だ。
葉賀ノ鞠菱高等学校文芸部とは、今がまさにそんな状態なのだ。
「だね。じゃあ詩の方頑張ろっと」
椿が軽くうなずく。
「ひとまず書き上げてから推敲するよ。文章量の減量、それから書式変更。やってみるね」
軽く手を挙げる奈寿菜。
「おーっし! じゃあこっちも頑張って好きなモン描いて描いて描きまくるぜ!」
腕まくりをする夏子。
今回も、無事に執筆・制作内容は確定したようである。
安堵して皆がふと窓の外を見た。
「あれっ。もう暗い?」
「もう10月だもんね」
「なに、全力で飛ばせばどうってことないって!」
空は暗くなりかけていた。
五分で帰れる奈寿菜はともかく、三十分かかる椿、一時間かかる夏子は、早く帰宅準備をしないと後が大変だ。
三人は急いで帰宅準備を始める。見回りの先生が突然戸を開けるとも限らないのだ。
その時に、見られては困る「あんな物」や「こんな物」がちらついているようでは危険である。
何かしら反省文でも書かされる可能性は充分あるからだ。
「さてっと!」
「よっこいしょ」と同じような要領でかけ声をかけ、重いカバンを片方の肩に担ぎ上げる奈寿菜。
椿と夏子は各々のリュックを背負い、窓を閉めたり鍵を手に取っていたりしている。
「あたしが閉めるよ」
「夏子くんサンキュー」
戸締りを夏子に任せ、奈寿菜と椿は先に戸の方へ向かい、普段どおりに開けた。
「わっ! 先生ですか?!」
いきなり二人の眼前に大人が現れた。
彼女らはかなり仰天したが、相手が顧問の白野千秋であることを確認すると、一旦安堵した。
戸を開ける時にいつもより軽く動くのでおかしいと思ったら、白野が同時に手をかけ、戸を開けたらしい。
「こっちもびっくりよ。で、もう活動時間はとっくに過ぎてるわよ。顧問が活動場所にいない部活は、5時15分まででしょう?」
そうだった。顧問が部室内にいない部活は先程白野が示した時間までに帰らなければならない。
しかしそれを文芸部部員が無視することは、一年生の時から実はあった。
それに、白野自身もそのことをあまり気にしていない様子なので、部員たちにとっては問題ない。
気を取り直して奈寿菜は、
「はい。でももう帰る準備できていますので」
強く波打つ白野の艶髪に、気づかれない程度に目をやりながら言った。
白野は部室をちらりと見渡すと、
「そうね……もう終わった感じね。ならいいか」
結構生徒に協力的というか、寛大に見て下さっているというか。
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