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文芸部の日常 〜オープンハイスクール一ヶ月前〜
7
「大きいね。あたしたちのページ見て。フォントサイズは8だよ」


 8とな?
 あまりにも小さいと思われるその数値を聞いて、ほんの一瞬奈寿菜は動揺したが、夏子が部誌を開いて見せた彼女の小説は、小さなゴシック体の字が紙面に集合しているものであった。


「ちっさ〜……」

「いつもこんなもんだよ。ね? みっさん」


 夏子が椿を見る。どうやら椿も小さい字で原稿を作成していたらしい。


「うん。余白の設定も、できるだけ狭くなるようにしてるんだ。15ミリだったかなあ。それとも10ミリ?」

「何だか、切羽詰まっているというか、無駄を許さないというか。見づらくないの?」


 目の負担について考えている奈寿菜は、見やすい紙面のことを思うと、二人の書式設定に不安なものがあった。
 想定可能な読者層のことを考えれば、多少字が小さくても大丈夫ということなのだろうか。
 すると、夏子が奈寿菜の思ったとおりのことを言った。


「ここの部誌読むのはごく狭い範囲の人でしょ? それに図書室に置いて自由配布、っていうかいわゆる『ご自由にお取り下さい』形式じゃん? ということは、読むのはここの生徒のみ、と自然に限られてくる。白野先生に渡す分を除けば、大人が好き好んで読むとは思えないし、その逆、小学生くらいの子供も読むとは思えない。
 ま、あたしたちが持って帰ったのを弟や妹が読むなら話は別だけど……」

「要するに何が言いたいかというと、我が文芸部の部誌『夜明』を読むのは高校生だっていうことだね?」


 夏子の今までの言を奈寿菜はかなり簡潔にまとめ、確認した。


「まぁそーゆーこと。だからさ、時代は減量なんだよ」


 時代と言うほどのものではないのでは……そう思ったが口には出さない奈寿菜と椿。
 とりあえず、夏子は部誌をもとの棚にしまい、ガラス戸を引き出してきて下ろすと閉じた。席に戻り、椅子に深く腰かける。
 そして、来月のオープンハイスクール向けに制作する部誌『夜明』について、こう締める。


「内容としては、いつもどおりってことよね」


 まさしくそうである。
 多少、中学生に対する紹介や呼びかけのような文をページのどこかに入れる以外は、何ら内容構成に変わりはない。

 しかし変わらない内容構成の中で、自らの作品を発表する場を存分に活用し、(発行部数の少なさのために、手に取る読者も少ないものの)他者へ向けて己の表現を発信する。
 この部は、そういう活動をするのにちょうどいい場であるのだ。

 そして、あまりにもマイペースな空気が、日々の勉強や対人などの学校生活の疲れを癒す。
 自分の趣味に活気を与え、情報交換もする。

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