文芸部の日常 〜オープンハイスクール一ヶ月前〜
6
「そうか。あのさあ、話そうと思ってたんだけど、11月のオープンハイどうする?」
奈寿菜は本を閉じてカバンにしまった。
それにあわせて、二人も話し合いの態勢に入る。椿は読んでいた設定資料を古机に置いた。次いでおもむろに口を開く。
「どうするって言われてもなあ……いつものように、詩を何編か書こうと思ってる。良ければなっちゃんにさし絵を描いてもらおうと思ってるんだけどね」
「なるほど。夏子くんは?」
話を振られて夏子は腕を組み、
「う〜ん、まあ適当にいつもどおり」
曖昧な答えを返した。
「『適当にいつもどおり』って何さ……」
奈寿菜はしっかりツッ込む。
「好きな絵でも描くよ。あとできるようなら短編小説一編。あ、それからみっさんの詩のさし絵もね」
そうなのか。詩と絵のコラボってやつ?
奈寿菜は誰に問われるでもなく、思いついたことを脳内で言葉にする。
尋ねてばかりの彼女に、今度は質問が振られた。
「ワタさんはどうするの? いつもの長編?」
自称「本の虫」ということだけあって、長編ものは大好きである椿が、何でもないように聞いてきた。
「うん。ページ数が気がかりだけど。ほら、最近の部誌ってさ、私がかなりページ食ってるでしょ? それが同時に部費を食ってることだと思うと、何だかなあ……。部長として、自分が部費を食っていることを充分自覚してはいるんだけれども」
はあー、とため息をつく。
幸せが逃げると言われてもやめられない。
疲れの気のようなものを排出しているんだと言った母の一言を支えに、今日も重い息を吐いたのだった。
うーん、と夏子が考案中のそぶりを見せる。
そして彼女はリュックのファスナーを開き、中から無地のクリアファイルを取り出すと、そこからさらに一枚の文書を取り出した。
何か文章が書かれた紙をじっと見つめる。
しばし見つめて考えていたが、つと立ち上がって、過去の原稿や部誌を収納している棚に行き、ガラス戸を床と水平になるよう持ち上げてから、それを前へ押し込んでスライドさせ、開いた。
「夏子くん?」
「前の部誌を見てみるからちょっと待って。えーと……ふむ」
水色の表紙の部誌を手に取ると、ぱらぱらとページをめくり、探していたらしい箇所で止めてさらっと文章に目を通す。
「ふむ……」
「……」
と、顔を上げて奈寿菜の方を振り返った。
「ズナさん。文字が大きいんだよ。小さくすれば、数ページは減らせるね」
簡潔な結論を口にした。
「字が大きい?」
「そ。いつもフォントサイズはどれぐらいにしてる?」
「え〜と、10.5だな」
それが普通の大きさだろう。自分が設定する前は自動的にその大きさになっている。
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