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文芸部の日常 〜オープンハイスクール一ヶ月前〜
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「……な〜んてな」


 川渡奈寿菜は、向かいの特別教室棟の校舎の屋上から目をそらした。
 二羽の鳩が、後から加わってきた鳩を、首を前後に振りながら必死に歩いて追い始めたので、ひとまず想像を切ろうと思ったからである。


 ここは葉賀ノ鞠菱高等学校、普通教室棟の校舎の四階、一年三組の教室の後ろにある文芸部の部室だ。

 今年の6月から一年生にして部長の職を務めている彼女は、校舎内部図では物置場として紹介されている狭い部屋に、その日一番乗りで席についていた。

 奈寿菜は一年四組の生徒なので、女子トイレと階段を挟んで存在している部室に行くのは、普通ならたやすいはずだが、一階の職員室まで下りてゆき、顧問教諭の白野千秋の机から部室の鍵を取ってきて、最上階まで重い荷物を抱えながら上っていかなくてはならないので、結構きつい。

 週二回活動のその恒例作業(とでも言うべきか)を普段どおりにこなし、室内に入って適当に過ごすというのが奈寿菜の「活動」である。


 今日は鳩が向かいの校舎に落ち着いていたので、手始めに彼らの会話を想像してみたのだった。
 他の部員――クラスメートの高尾夏子、彼女の紹介で二学期から入部した合唱部所属の一年六組・美作椿が来るまで、いつもこうして外を眺めつつ、鳩が来れば会話を考えていた。
 たいていは人間を見下している鳩というキャラを設定して彼らの架空の会話を一人で演じていた。


「はあ……」


 別にどうってことないのだが、とりあえず息を吐く。


「そういえば、オープンハイスクールの分の部誌、二人とも原稿進んでんのかなぁ」


 毎年11月頃に、在池市、高東市、在池郡有稲町(葉賀ノ鞠菱高校はこの町にある)、在池郡椀端町の二市二町の中学校に通う中学三年生が、高校見学に訪れるイベント「オープンハイスクール」が開催される。
 部活動見学や体験もあるので、過去に奈寿菜らの先輩部員は、オープンハイスクール用に部誌を作り、部室を訪れる中三生に配布するという形式をとってきていた。

 奈寿菜が部長となる今年もその形式を展開する予定で、夏子と椿に原稿作成を依頼している。
 当然、奈寿菜も原稿を作成している。彼女はたいてい長編になってしまうので、内容の減量に頭を悩ませていた。


「確か……あそこまで進んだっけ。そう、博雅が親父ギャグ言うの」


 安倍晴明にゆかりのある旅の術師・安倍黎明と、彼が従えている六人の自然霊から成った式神たちが繰り広げる、ギャグファンタジー(奈寿菜命名)妖奇譚『漂泊術師と六式神』(『式神』は『しきじん』と読ませたいというこだわりがある)。

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