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企画
未来の片隅で・B(長編銀さん映画ネタバレあり)
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※映画を観ていない方はチンプンカンプンの上にネタバレしまくりなのでご注意を。
※解釈が違っているかもしれませんし、辻褄があわないかもしれませんが、ふわっと流してやっていただけたら嬉しいです。
※数ある未来のうちのひとつのお話ですので、どんな展開でもお許しくださる方のみお読みくださいませ
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過去はひとつだ。けれど未来は小石ひとつ蹴るか蹴らないかだけでいとも簡単にふたつに別れてしまう。
まわりまわって結局あるひとつの未来にたどり着くのかもしれないが、それを確かめる手段は無い。

―しっかしだ、どんな石ころ蹴ったらこんな未来になんだよコラ

時間泥棒の放つ光に包まれ銀時がやってきたのは、五年後の荒廃し見る影もなくなったかぶき町だった。
自分の墓、崩れたターミナル、荒みきった町を見てきて、一体これからどうすればいいんだと呆然とする銀時の着物の袖が、くいくいと不意に引かれた。
自分をここへ連れてきた元凶と思われる時間泥棒かと思ったら、

「銀さん銀さん、ここ、どこ?」

この場に似つかわしくないほんわかとしたした声。
へ、と銀時が状況を飲み込めず間の抜けた声を出しつつ視線を横に移すと「映画のセットか何かかな?」とにっこり銀時を見上げる名前が居た。
なんでおめーもここにいるー!!!! と、雷に打たれたかのように驚く銀時に
「銀さん、映画館のトイレから戻ってくるの遅いなーって思ってたら眩しい光に包まれて」とあっけらかんと言った。



混乱した銀時と、銀時と一緒だからか何の焦りも感じていないと思われる名前は、時間泥棒にここが五年後の世界だと言われ絶句する。
特に名前は、銀時の墓を見ていなかったので、銀時がこの五年後に亡くなっていると聞き、顔が真っ青になった。

そしてバイクの集団に襲われそうになったところでたくましく成長した、けれどとても哀しい目をした新八と神楽に出会い、色々あってスナックお登勢に行くことになった。
お互い、かなり距離を開けて前を歩く新八と神楽の後姿を見ながら、名前と銀時は互いの身体を寄せ合うようにして歩く。

「銀さん、神楽ちゃん綺麗になったね。新八君もイケメンだし。もうビックリしちゃった」
「あのね名前ちゃん、今あいつらの成長にしみじみしてる場合じゃないの。俺達がどうしてここに来たのかわかんねーと帰れねーから」
「…………銀さんが死んでしまう未来が待っているなら、私は帰りたくない」

小さな声で、でもはっきりと名前は言った。
服の袖を掴んでいた手を離すと、銀時の手をぎゅっと握ってくる。

「名前……」

時間泥棒が言っていた。銀時は、この未来を変える為に“ある方”に呼び出されたのだと。
だとしたら名前がここに居る理由は?
地面に視線を落としていた名前が、すっと銀時に向かって顔を上げた。

「でもね、私思ったの。銀さんが死んでしまった原因を突き止めて、戻ってからそうならないように気をつければいいんだよ」

そうしたら、神楽ちゃんも新八くんも、あんな風に辛そうな顔をした大人にならないよ、きっと。
名前は小さくそう言って、二人の背中を見て寂しげに微笑む。

「俺はこの世界を変えて、名前は俺の未来を変えんのか。ったく、大変なことになりそうだな」
「私は一度、銀さんに魂を救ってもらったから、今度は私が銀さんの為に頑張る番。どんなに大変でもね」

花がぱっと咲くような綺麗な笑顔を見せる名前を見つめ、銀時は思う。こいつがいてよかった、と。
銀時は目を細め、名前の身体を抱き寄せる。
名前の額には、銀時と同じ小型の装置が付けられていた。
同じ装置を付けている者同士は作用しないのか、銀時と名前は、お互いを普段と同じ姿で認識できた。
しかし新八と神楽には、二人は銀時と名前のコスプレをした他人にしか見えていない。

「人目も憚らずベタベタと」
「…………なんか、銀ちゃんと名前みたい」

新八もそう思っていたが、神楽の言葉を素直に肯定できない亀裂が二人の間には走っていたため、ただ黙って眼鏡をくいと上げる。

「ま、銀ちゃんと名前のイチャつきっぷりはあんなもんじゃなかったけど」
「さっきからベラベラと。俺に何を言って欲しいんだ」
「別に。ひとりごとよ」

くう、と小さな声を出した神楽の横を歩く定春が、すがるような眼差しで銀時と名前を振り返った。



スナックお登勢にて、自分達のことは坂田銀時と坂田名前だと認識されないよう時間泥棒にハナク……装置を額につけられている為、
自分を珍宝、名前は万宝と名乗り、坂田銀時の義兄弟だとお登勢に説明した。
これまでの、信じたくは無いが銀時が亡くなってからの五年の間の、それぞれの事情が何となくだが飲み込めていく。
万事屋は解散したという。神楽はもう上に住んでいないらしい。
だとしたら、この世界の、五年後の名前は何処へいったのだろうか。

「あ、あの、えーと、銀さんって、超カワイイ奥さん居ましたよね。名前さんは一体どちらに?」
「名前かい? ……さあ、どこに行っちまったんだろうね」

お登勢の言葉に銀時と名前の表情が凍る。この世界で自分は死に、名前は消えた。
一体、何があったのだろうか。


かつて万事屋の事務所があった二階は、五年分のホコリが、かつて皆で笑いあった気配を全て覆い尽くしてしまっていた。
神楽が説明する、白詛、ナノマシンウイルス、聞き慣れない単語と禍々しい話の内容に眉を寄せる。
江戸がこうなった理由を調べていた過去の自分は、その道中で失踪したらしい。
五年も現れない人間だ。生きているという可能性など低すぎる。しかし、神楽も新八も、その瞳の中に微かな希望を持っていた。

「名前は銀ちゃんと全く同じ時期に姿を消したわ」
「……おそらく、名前さんは銀さんと一緒に……」
「そんなこと、あるはずがないでしょ! 名前は、銀ちゃんのこと迎えにいってくるって、帰ってきたら皆に凄いニュースを発表するからって、それで行って来ますって笑って出掛けていったのよ!」
「凄いニュース?」

神楽の言葉に名前が小さく首を傾げる。

「さあ。何だったのかしらね。早く聞きたいんだけど、あの人どこで寄り道してるんだか」
「神楽ちゃん……待っててくれてるんだね」
「か、勘違いしないでよね! 誰も待ってなんかないわよ。絶対に銀ちゃんが名前を見つけて帰ってくるんだから。それまでちょっと留守番してるだけよ」

ふん、と神楽が少しだけ頬を染め、横を向いた。


▽▽▽▽▽


全ての因縁だと思われた魘魅。その本体はとうに失われていた。
しかし銀時の身体を苗床にしたウイルスは、粛々と世界を白く蝕み、確実に滅ぼしていくものだった。
未来の自分から聞く十五年前の呪い、そして起こる悲劇、それを聞き銀時は愕然とする。
兵器であるナノマシンウイルスに蝕まれ自らが魘魅となってしまった五年後の銀時は、銀時に自分を討ち取らせる為に銀時を呼んだのだ。

「銀、さん…………?」

小さな声に振り返ると、危険だからとお登勢に頼んできたはずの名前が居た。

「名前、あぶねーからついてきちゃ駄目だっつったろ」
「ごめんなさい。でも、どうしても銀さんと一緒に居なくちゃいけない予感がして」

時間泥棒がゆらりと動き出す。
そのことにも気付かず、木刀が胸を貫通する五年後の銀時を見て「な…んで……ぎん、さんが」とよろける名前の身体を銀時がしっかりと支えた。

「名前……か、夢……見てるみてーだぜ、また元気なお前に会えるなんて、な」

死がすぐそこまで迫っているというのに、銀時が弱々しい声を絞り出し、微かな笑みを口元に浮かべる。

「おい、この世界の名前はオメーの傍にはいないのか」
「居たぜ……数年前に俺の腕の中で息を引き取るまではな。真っ白な髪の毛になっちまってたが、それでも最後まで綺麗だったよ」
「……名前も白詛に?」
「俺のこと探し当てた時にはすでに罹っちまってたさ。俺ァ、愛する女を自分のせいで亡くしちまった」

苦しげに、一言一言を紡ぎつつも、銀時の名前を見る目はひどく優しかった。

「銀さんのせいじゃない、銀さんのせいじゃないよ」

名前が涙を流しながら、禍々しい服に身を包んだ銀時の手を握る。

「………愛してる、名前。すまねーな、護って……やることができなくて」
「…………」

銀時は、黙ったまま手を握り合う未来の自分と名前を見つめ、これから自分がやらなければならないことへの決意を固める。
未来の銀時は、ちらと時間泥棒を見たあと、視線を真っ直ぐ銀時に向けた。

「準備は整えておいた。後のことは頼んだぜ坂田銀時。俺を殺れんのは、俺しかいねえ」

最後にそう言うと、微笑みながら銀時は逝った。


▽▽▽▽▽


「銀さん、行くんだね」
「ああ」
「私もいっしょに、
「駄目だ」

未来を、皆を救う居には、過去の自分を殺し現在、未来の坂田銀時という存在を無くすしかない。
名前を過去まで連れて行き、過去の自分を殺したら今の自分は消えるだろう。
そうすれば名前は攘夷戦争の真っ只中に、一人残されてしまうことになる。絶対に連れて行くわけにはいかなかった。

「俺を消しに行く。過去から丸ごと俺の存在を消せば、白詛はもう、この世界に広がることはなくなるからな」
「ずっと、一緒にいるって約束したじゃない!」
「それとこれとは別なんですぅー」
「銀さん、忘れたの? 銀さんが居なくなるってことは、私も消えるってことだよ」

妙に落ち着いた名前の言葉に、銀時がハッとする。

「私は、私のことを銀さんが愛してくれたから、助けてくれたから、そのおかげでこの世界と繋がることができた。こうして生きていられるのは銀さんがいたからなんだよ」

つい昨日のことのように思い出す。名前の亡骸から名前の魂を抱き上げたその重みを。
自分が消えるということは、名前もそのまま、魂を抱き上げられることなく違う世界で亡くなるということだ。

「銀さんが消える時は私も消える。だからお願い。最後の瞬間まで銀さんの隣にいさせて」

ひしひしと、名前の想いが伝わってくる。目に涙を浮かべ、必死になって銀時についていこうとする。
銀時が名前の頬に手を伸ばすと、同時にあたたかな涙がその手に落ちる。
ここまで深く愛されて、俺は何をやってんだと、銀時は名前を抱きしめた。

「……ごめんなさい。銀さんの為に頑張るとかいっておいて、結局わがままばかり言って」
「わがままなんかじゃねーよ。俺の方こそすまねーな、護ってやれなくてよ」
「もう一人の銀さんにも謝られたけど、私は幸せだよ。銀さんがいるもの。銀さんに出会えたもの」
「名前…………」

二人は黙って深く唇を重ねる。
最後まで共に、という誓いのような口付けだった。

「新八くん、神楽ちゃん、定春、ごめんね」

名前の言葉に続き、銀時も「すまねーな、」と大事な万事屋の仲間である神楽、新八にもう帰れないことを謝る。
すると、二人の背後から力強い足音が二組、聞こえてきた。

「銀ちゃん、名前、何を言ってるアルか」
「銀さん名前さん、アンタ達、どこ行くつもりだよ! 僕達がどれだけ帰ってくるのを待ってたと思ってるんだ!!!」

五年分、二人の身体は成長しても全く変わっていない強い絆がそこにはあった。



―そしてその絆は、時を超え十五年前という過去にまで届く



▽▽▽▽▽



「いやー、よかったですね依頼主さん優しい人で。予定より早く仕事が終わった上に報酬まで上乗せしてくれるなんて」
「遅刻ギリギリだったぶん取り戻さねーとって、がむしゃらにやってたらだな」
「そういえば名前さんに連絡入れたんですか? 買い物してお昼から合流するって言ってましたけど」
「それならさっきしといたぜ。したら名前のやつえらく興奮した声で、帰ったら皆に大ニュースがあるっつってたが……何だろーな」
「大ニュース? 今夜はすき焼アルか!?」
「神楽、オメーの一番に想像する大ニュースってのはすき焼なのか」
「じゃあ焼肉アル!」
「はは、神楽ちゃんらしいな。でも宝くじが当たったっていう可能性もあるかもね。名前さんたまに買ってたし。銀さんは何だと思います?」

新八の問いかけに、銀時は考えるように空を見上げる。
遠くにそびえ立つターミナルをぼんやりとその瞳に映しながら、柔らかな表情で「さあな」と言って微笑んだ。




23番の方のリクエストで、映画の未来の万事屋と連載ヒロインちゃんを絡めて。銀さんとの甘甘甘甘なお話、でした!
未来の銀さんを絡めたら、ちょっと暗くなってしまいましたごめんなさい。
楽しんでいただけたら嬉しいです!リクエストどうもありがとうございました。

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あきゅろす。
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