企画
意識してください(沖田)
「沖田隊長、おはようございます!」
縁側で寝転がっていた沖田は、そのはきはきとした声と共に愛用のアイマスクを引っ張られ、ゆるやかな午睡から一気に意識を浮上させた。
真夏の太陽が瞼越しにもジリリと光と熱を伝えてくるようで、沖田は声の聞こえた方に顔を向けてアイマスクを取り去りつつゆっくりと瞼を開ける。
「名前、掃除の時間ですかィ」
「はい。沖田隊長」
真選組の隊士の中でもかなり若い沖田だが、この女中はその沖田よりも更に年下だ。
初めて会った時、どこのガキが屯所で迷子になったのかと思ったものだが、最近少し名前のことを意識するようになってしまったから困っている。
「女中の仕事はどうでィ。辛かったら俺に言いなせェよ」
自分の顔は大勢の女性を夢中にさせることを知っていて、どう使えば呆気なく落ちるのかはわかっていた。
優しい声を出し、特別だよというような微笑を浮かべ、じっと瞳を覗き込みさえすればそれでいい。
「ありがとうございます! 隊長って本当に優しい方ですね」
…………しかし名前のおかげで、それが通用しないこともあると知った。
はあと名前に聞こえないよう小さく溜息を吐き、沖田は陶器のような名前の頬に手を伸ばす。
「隊長?」
「じっとしてろィ」
「私の顔に何かついてます?」
「目と鼻と口が」
「それ、沖田隊長もついてますね」
「眉毛もな」
「あはは!」
無邪気な笑い声に、沖田もつられて笑ってしまう。
名前は沖田が自分に意識されていることを全くわかっていない。
詳しい歳は聞いていないが、確か一歳二歳しか変わらないはずだ。
幼さはあまりないが、かなり鈍いのだろう。もしくは、沖田のことが最初から眼中にないのか。
「名前、俺のことどう思ってるんでィ。正直に言わなきゃクビな」
沖田は胡坐をかき、腕を組んで正座して正面に座る名前を見つめる。
唐突な沖田の言葉に、名前は大きな目をもっと大きく開き、ぽかんと口を開ける。
「クビにされちゃ困ります!」
「じゃあ吐け」
「隊長は、親切で優しくて時々意地悪です」
「好きかそうじゃないかで言うと」
「もちろん好きですよ」
「へーそりゃ嬉しいや。俺も好きですぜ名前のこと。じゃあこれからよろしく頼まァ」
名前の“好き”は沖田と同じ種類の“好き”ではないことは百も承知だ。
道端の花や甘いケーキを好きですと言っているようなものだと。
「これからよろしく、ってどういう…………」
「俺のこと男だって意識しろィ」
ぽかんとする名前の唇に、沖田はごく軽く自分の唇を触れ合わせる。
わざとゆっくり唇を離し、間近で名前をじっと見つめてみる。
初めて見る名前の耳まで赤く染まった顔を見て、これは脈がありそうだと胸を撫で下ろす沖田だった。
05番のリクエストで、年上の沖田さんに全く恋心のない女中さんをあの手この手を使って落とす沖田さんでした!
リクエストどうもありがとうございました!
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