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企画
どうか幸せに(長編銀さん番外編&攘夷&高杉?)
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この銀さんの誕生日企画の話の直後の話です。
上から話が続いているので、読んでいただいてからの方がいいかと思います。
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名前の手のひらのぬくもりは、自分でもどうすればいいのかわからないまま放置してきた心の中心にある深く抉れた古傷を、
まるで真綿でそっと包み込むように優しく癒してくれるようで心地良い。

銀時の誕生会は日付が変わる前に終わり、とっぷりと暮れた夜道を銀時と名前は手を繋ぎ並んでゆっくりと家路を辿っていた。
その道中、つまんねー昔話だけどよ、と前置きし、銀時は白夜叉だった過去の自分の話を突っ込みを交えながらぽつりぽつりと話し出した。
今までは頑なに過去のことに口を閉ざしていたというのに今夜はどうしたのだろう、と名前は銀時の話を真剣に聞きつつ時折相槌を打つ。
誕生日で感傷的になっているのだろうか、それとも、ただなんとなく、というだけなのか。
わからないが、銀時がそれだけ深い所まで名前にきてほしい望むなら、全てを受け入れるだけだ。



―攘夷戦争。
血に染まり、泥にまみれ、それでもなお戦場を駆け抜けた日々。
晴れた日もあった筈だ。それなのに、思い出す光景はいつも薄暗い。
目を血走らせイライラした輩ばかりのその中で、一人太陽のように明るく笑うヤツがいた。
坂本辰馬のことではない。銀時と同じく、松陽先生の元で共に学んだ元気な幼馴染の少女だ。

「ちょ、ちょっともういいから! こっからは自分で巻けっから、もうオメーは他のヤツの手当てしてろ!」

脚の付け根の辺りを斬られていた銀時は、血の滲むズボンを脱がされまいと、横になったまま必死にその細い手に抵抗する。

「なによ銀時。あんた達とどれだけ一緒に過ごしてきてると思ってるの。あんたの局部がちょこっと見えるくらいどうってことないって!さっさと手ェどかしなさい!」
「どうってことあるから! やだーちっさーい! なんて男として立ち直れねーようなことオメーぜってー平気で言うから!」
「ガッハッハッハッハッハッハッハなんじゃ金時、おなごに襲われて涙目になっちょるんか! 白夜叉と呼ばれる男が情けないのう!」
「るせー。俺は金時じゃなくて銀時だ」

隣に寝転がっている包帯だらけの坂本を睨みつける。
すると反対側から「手が空いたらこちらも頼めるか」と弱々しい声がした。

「ヅラの手当てはさっきので終わってるじゃない」
「銀時の股間がそんなに気になるのなら、俺の股間を見せてやろうと思ってな。これは何もいやらしい意味で言ってるんじゃないぞ。銀時が困っている様子なので仕方なくだ。貸しにしておくぞ銀時」

ふっと無駄に爽やかな笑みを浮かべた桂の顔面に、幼馴染の拳が埋まる。

「バカなこと言ってると後悔するよ」
「後悔っつーか気絶してんじゃね?」

口の端をピクピクと引きつらせながら銀時が突っ込む。
この少女、昔から剣の腕はからきしだったが、どこか逆らえない強さがあるのだ。

「じゃあ銀時、ズボン脱ごうか」
「やめて! 助けて! 襲わないで!」
「やめておけ。てめーの目と手が腐っちまうぞ」
「晋助」

不敵な笑みを浮かべつつ室内に入ってきた人物は、鬼兵隊総督である高杉晋助だった。
満身創痍の銀時達と違い、高杉の身体には傷ひとつ見えない。

「晋助、よかったー。怪我は無いみたいだね」
「そこのバカ共と一緒にすんな。俺ァあんなヘマしねェ」
「ハッ、どうだか。天人のおかしな攻撃で高杉の股間がヤクルトになってっかもしんねーぞ。ちょっとみてやったらどうだ」
「バ、バカじゃないの!? 何言ってんの銀時」

幼馴染の顔が真っ赤に染まる。昔から、この少女は高杉に恋心を抱いているのだ。

「おお、そういうことじゃったか! いつも高杉の前でだけ別人のようにおとなしゅうなっとるのうと思っとったが、アレか、おぬし高杉に惚れとったんか!」

ガハハハと坂本の笑い声がしんとした室内に響く。
アハハハと幼馴染も坂本の言葉に一緒になって笑った。
かと思いきや、キッと瞳に殺意を浮かべ「辰馬の顔にデカい蚊が!」と言って幼馴染が本気の拳をデリカシーゼロの坂本の顔面にめり込ませる。

「私、外に居る軽症のやつらの様子見てくるから、銀時、自分でちゃんと消毒しておくんだよ」
「お、おお。それよか辰馬ヤバくね? 息してなくね?」

銀時の心配をよそに、幼馴染が立ち上がる。

「晋助、……さっきのは、辰馬の戯言だから」

腕を組み、戸口に身を預けて立つ高杉から目を逸らしつつ、幼馴染はその横を通り過ぎようとした。
しかし黙ったままだった高杉がおもむろに幼馴染の肩に腕を回す。
瞬時に顔を真っ赤にした少女に高杉が何かを耳打ちすると、肩を抱いたままどこぞやに連れ去っていった。
銀時はその流れを頭の後ろで腕を組み黙ったまま見ていた。二人が居なくなると同時にふうと長く息を吐き目を閉じる。

国を護るため集まった侍達。その中には戦いで昂ぶった身体の疼きをギラついた目で幼馴染の少女に向けようとする男も居た。
しかし幼馴染自身、そして銀時達が、そういった男供を容赦なく打ちのめしたものだから、もう誰も幼馴染に手を出そうとする者は居なくなった。
そしていつからか、高杉が幼馴染とああして二人でどこかへ消えることが多くなった。そのことは銀時だけが気付いていたと思う。
幼馴染は子供ではない。身を護るすべを知っている。何をしようがされようが幼馴染の勝手だ。物陰でやろうが外でやろうが銀時には関係ない。

先の見えない戦いの中で、高杉は恋愛などに現を抜かすような奴ではないことを銀時も幼馴染も知っていた。
束の間の休息の時、一時的に身体を重ねるだけで行き場のない互いの想いを紛らわせていたのだろう。
遊郭に行くのとは違う。更に想いに飢えて空しくなるだけの行為じゃないのかと銀時は思うが、戻ってきた幼馴染はいつもどこか満足げだった。
だから何も言えなかった。幼馴染の意思だ。それでも高杉と一緒に居たいと、そう思っているのだろう。
だから隠し切れていない幼馴染の哀しげな瞳の色を、銀時は見て見ぬフリをした。

この時の銀時は人を愛するということがまだわからなかった。恋愛感情を持たず快楽は金で買う、それが気楽だった。
人が入ってきた気配に、うつらうつらとしていた銀時が目を開ける。
出しっぱなしだった血だらけの包帯を片付けはじめた幼馴染に銀時は静かに声を掛けた。

「高杉のヤクルト飲んだんか」

そのからかいとシモネタと若干の心配を滲ませる銀時の言葉に、幼馴染は少しだけ気まずそうに唇を噛んでからにっこりと笑う。

「銀時、あんたまだ消毒終わってないみたいだね。脱げ」
「イヤアアアアアアア!!!!!!」

日々、誰かが命を失っていた苦しい戦争の真っ只中にも、甘酸っぱい思い出はあったのだ。



「……それで、その人は今どうしているの?」
「さあな。知らねえ。けど、昔から何かっつーと高杉にくっついてて、戦争にまでついてきたやつだから、今でも高杉と一緒に居るんじゃねーの」
「そっか。幸せに暮らしてるといいね」
「そーだな」

正直、片目を失い狂気そのものに身を投じてしまった高杉と、今でも共に居るのかはわからない。
すれ違ってもわからなくなってしまっているかもしれない。どんな風になっていようと、今はあの哀しい瞳をしていなければいいと思う。
じっと名前を見つめると、名前も銀時を見上げ穏やかな笑顔を見せた。その笑顔は銀時の心をいとも簡単に解してくれる。

「銀さん」
「ん?」
「昔のこと、話してくれてありがとう」

哀しい色など何一つ浮かんでいない澄んだ眼差しは、自分が注ぐ愛を喜んで受け入れてくれて、しかも同じかそれ以上の大きな愛を返してくれる。
自分がこんなにも人を愛するようになるだなんて、白夜叉と呼ばれていた頃には想像もしていなかった。

「ねえ、結局銀さんは幼馴染さんに手当てしてもらったの?」
「え、あ、いや、その、お、思い出したく……じゃねえ、忘れちまったよそんなこと」

銀時が情けない表情で首を振る。その表情から、きっと幼馴染の少女に強引に手当てされてしまったのだろう、
そして、何かからかわれるようなことを言われてしまったのだろうと名前は読み取る。

「銀さんのはちいさくなんてないよ」
「名前ちゃん気ィ使ってる!?」
「使ってないよ」

もうこの話やめようぜ、と情けない顔をして項垂れる銀時の頭を、名前がくすくす笑って優しく撫ぜた。
頼りない蛍光灯の光が薄暗く照らす夜道。誰もいないしいいだろうと名前の唇に触れたくてずいと顔を寄せたその時、向こうから足音が聞こえてきた。
慌てて顔を離した銀時は、その音の軽さにそれが女の足音だということに気付く。
こんな夜更けに女一人で大丈夫かね、と何気なくその女性の顔を見ると、女性も銀時のことをまじまじと見つめてきた。

「…………お前、」
銀時が名を呼ぶより先に、その女性はにこっと昔と何も変わらない笑顔を浮かべ、手に提げていたスーパーのビニール袋を上にあげる。

その中にはヤクルトがどっさりと入っていた。





21,26番のリクエストで、
攘夷4にのシモネタ攻撃に幼馴染ヒロインがキレる思い出話をする企画の銀さん誕生日会後の2人!でした。
怒涛のシモネタとセクハラにならなくてごめんなさい。辰馬さんの言葉が変だと思いますがごめんなさい。
リクエストどうもありがとうございました!!

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