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企画
不安定で不確かな・後編(長編銀さん番外編)

※金魂篇です


新八に殴られ、神楽に冷たい言葉を投げかけられ、挙句の果てに飲み屋で金時にトドメを刺され、
どん底に落ちた銀時は雨が降る中パンツ一丁でゴミ捨て場に捨てられていた。
何もかもを失ったと、今の酷い状況から立ち上がる気力も出ない。

くーん、くーん、と甘えたような犬の鳴き声がした。
ノラ犬の同情なんざいらねェよと鳴き声のした方を睨むと、そこには見覚えのある真っ白な大きな犬が、大きな瞳に銀時を映し、嬉しそうに「わん」と鳴いた。
定春。定春だった。
以前と変わらぬ黒々とした純粋な眼差しで銀時に顔をすりつけ、そして頭にかぶりと噛み付いてくる。
そんな定春の後ろから現れたのは、傘を差したたまだ。
偽りの、眩しいだけの強い光に惑わされなかった一匹と一機。孤独に打ちひしがれていた銀時の心にぽっと小さな灯がともる。

たまと定春は銀時を奮い立たせ、金時に奪われたこの街を、人々の心を取り戻させるため、銀時を探しにこの雨の中やってきたのだ。

『思い出して』

その言葉にごく当たり前に自分に向けられていた新八と神楽の笑顔を思い出す。
降り注ぐ木漏れ日のように、柔らかな笑顔でいつも銀時の傍にいてくれた名前を思い出す。


あんな胡散くせー偽者に、アイツらをとられたままでいられるか―


ぎり、と唇を噛んだその時、雨の音に紛れ小さな足音がぱしゃりと響いた。

「銀さん」

名を呼ばれ、これほど嬉しかったことがあるだろうか。
たまがその声に反応し『名前様』とプログラミングされたものではない、心からの微笑みを浮かべその人物を振り返った。

「銀さん、おそくなっちゃってごめんね」

落ち着いた、ただただ優しい名前の声。
いつもの可愛らしい笑顔、銀時だけに向けられるひたむきな眼差し。

「名前……俺のこと……」
「私ね、愛する人がいて、可愛い家族が居て、毎日幸せでたまらないなって思ってた。なのに最近、何かおかしいなって思うようになったの」

名前が傘を畳み、地面に座り込んだままの銀時の前にしゃがむ。

「私は金さんを愛していたはずなのに、 違う世界からきた私を全て受け入れてくれただけでなく、ここで生きる意味と幸せをくれた筈の人なのに、受け入れられなかった。
 なのに銀さん、あなたを見て泣きたくなった。愛しくて、泣きそうになった」

そっと手を伸ばし、名前は雨に濡れた銀時の髪の毛に触れた。
濡れて光る銀の髪を愛しげに撫ぜ、やっぱり、と泣きそうな顔をして笑う。

「愛する人が入れ替わっていたんだもの。おかしいはずだよね」

銀時が名前に腕を伸ばすと同時に、名前も銀時の胸に飛び込んだ。
強く、強く抱きしめあう。
「ごめんね、ごめんね銀さんすぐに思い出せなくて」と涙声で謝る名前に
「バカ、オメーのせいじゃねーってこたァわかってっから……だから謝んな」と銀時は愛しい名前の首筋に目を閉じて顔を埋める。
たまと定春が安心したように微笑んで二人を見守る中、銀時と名前は深く唇を重ねあった。

『愛とは統計的な数字に基づき不安定で不確かな移ろいやすい感情だと認識してましたが、銀時様と名前様はそんな愛という絆で堅く強く結ばれているのですね』
「わんっ」

互いの気持ちを再確認した二人は、たまが地面に突き立てた銀時の愛刀である、洞爺湖と刻まれた木刀に視線を注ぐ。
名前が銀時の腕の中からそっとその身を離すと、たまと定春の横へ立った。
それを待っていたかのように、たまが銀時へと問いかける。

『アナタの魂は何色ですか』

木刀を握った銀時の瞳は、魂は、決して金にも負けたりしない強い銀色の光を放っていた。



「……金色の世界に殴り込みに行く前に、ちと名前に確認しておきてーことがあるんだが」
「なあに? 銀さん」
「結婚指輪、捨てられちまったのか? あの、金時って野郎に」
「あ!」

名前が襟元に両手を重ねる。
気付かなかったが、名前は首にシルバーの細い繊細なチェーンのネックレスを付けていた。
それを首から外して銀時に渡す。そこに通されていたのは、銀色に輝く指輪だった。
それは確かに銀時が贈ったもので、裏に彫られた二人のイニシャルを確認した途端銀時の心に安堵が広がる。
同時に名前への愛情があふれ出て、銀時はそっと微笑を浮かべると、指輪をゆるく握り締めた。

「金さんにね、ゴールドの指輪を買ってやるから捨てろって言われたんだけど、どうしても捨てることができなくて。だからこうやってここに隠してたの」
「あんがとよ名前……ほら手、出せ」
「はい」

名前の左手を、宝物を扱うようにそっと取る。
その薬指にゆっくりと時間をかけて、結婚指輪をはめてやった。





27.31番のリクエストで、金魂篇でした。
銀さんがヒロインを奪還する前に自分からきちゃいましたが、そこらへんはお気になさらずウフフフフ。

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あきゅろす。
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