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企画
先走る眩しい未来(EDGE OF THIS WORLD番外編)

照明を落とした室内で、静かに興奮を滲ませながら押し当ててくる銀時の唇を、名前は複雑な気持ちで受け入るかどうか迷っていた。

しかし、それでも銀時が愛しくて、名前は迷った末に小さく口を開く。
いつもならすぐさま深く被さってくる唇が、名前の迷いをまるで感じ取ったかのようにふっと離れてしまった。
動揺する瞳を銀時へ向けると、至近距離で心配したような瞳を名前に注いでいる銀時と目が合う。

「ここんとこ時々、オメーさん心配事抱えた顔してっけど……何かあった?」

名前の髪を優しく撫ぜながら銀時は微笑む。

「気付いていたの?」
「当たり前だコノヤロー。俺がどんだけ名前のこと見てると思ってんだ」

その言葉に名前は驚いたように目を大きく開いた後、たちまち嬉しそうに表情を崩す。

「そっかあ、隠し事もできないね」

少しだけ安心したような顔をした名前は、布団の上で片膝を立てて座る銀時にそっと抱きつく。

「……で?」
「あ、うん。私こんなこと初めてで、すごく戸惑ってるんだけど……嬉しくないわけじゃなくて……でも一人の問題じゃないから……えーと、」
「悪ィ名前、もーちっとわかりやすく教えてくれや」

要領を得ない名前の言葉だったが、その感触から、そう衝撃的な内容じゃなさそうで銀時は内心ホッと胸を撫で下ろす。
そんな銀時の緊張が緩まると同時に、名前が言い難そうに口を開く。

「今月、まだきてないの」
「あん?家賃の取立て?」
「…………」

名前がふるふると可愛らしく首を振り、無言で銀時を見上げてくる。
透明な眼差しの中に浮かぶ気恥ずかしさに思わずデレッとだらしない顔になった銀時だったが、次の瞬間ハッと真顔になった。

「遅れてるって……もしかしてアレ? おおおお女の子の日ってヤツ?」

銀時の動揺する様子に顔を曇らせつつ、名前は申し訳なさそうに頷いた。

生活態度もルーズなら避妊もルーズだった銀時に流されるまま無責任な行為を受け入れていた名前も名前だが、
それは銀時が日頃から「一生俺の傍から離さねェから」なんて名前にも周囲にも言いまくっていたからだ。
もし妊娠したとしても、臆することなくその逞しい腕で柔軟に受け入れてくれると、そう思っていたのだが。
目の前の銀時は、その可能性を伝えただけで硬直してしまった。
自分は迷惑な存在になってしまったのかもしれないと、名前の胸が苦しくなる。
それでも何とか無言の銀時に名前は言葉を搾り出した。

「もしかしてってだけで確定じゃないから……でも知ってて欲しかったんだけど、なんだかびっくりさせちゃってごめんね。明日ちゃんと調べてみる」

今夜はもう寝ようか、と銀時の布団にピッタリくっつけた自分の布団へ入ろうとする名前の背中を、銀時がちょんちょんと指で呼ぶ。
沈んだ表情を押し殺し振り返った名前の瞳に映った銀時は、押し寄せる嬉しさに頬が緩んで仕方がない、といった優しい顔で

「愛してる」

そう言ってふんわりと包み込むように名前を抱きしめてきた。
堪えていた涙が安堵と共に溢れ出す。
そんな名前の涙を親指で拭いながら「なんでそんなめでてーこと、すぐに教えてくんなかったワケ? 焦らしプレイ?」と笑う。

師匠が逝き仲間と散り別れ、一生埋められない孤独を抱えたまま生きていくのだろうと思っていた。
それが今じゃ、生死を賭けた戦いに巻き込まれても当然のようについてくる馬鹿達や、
人生の伴侶で居て欲しいと願ってやまない名前のおかげで、銀時の孤独はそれらを護る為の強さに変わった。

そんな自分に、更に護るべき愛しい命が芽吹いたかもしれないという知らせは、聞いたときはその重圧に無言になったりもしたが、それ以上に感激が勝った。
違う世界からきた名前は、元の世界へ帰りたいという気持ちも理由も肉体の心臓が止まった瞬間に永遠に消えてしまった。
だけれど、それからも生きていく場所はあった。あると思って欲しかった。
ここには、誰も敵わないと自負するほど名前を愛する自分が居ると。
神楽や新八、この世界で出会った人々とだって、新たな絆はしっかりと繋がっているはずだ。

突然ふっと消えてしまうことを恐れ、毎晩腕の中に抱いて眠る毎日。
名前は息苦しくないだろうか。そんな銀時の心配を名前は笑って、安心するよ、と消し去ってくれる。
そんな健気でひたむきな愛を返してくれる名前との間に出来たかもしれない命を、名前と同じように愛しく思うのは当然だ。

「私も愛してる、銀さん」

銀時の愛を受けこの世界に根を張り、隣に寄り添いながら離れないよとそっと囁く。

「なあ、ガキができたかもって俺が怖気づくとでも思った?」
「ごめんね……ちょっとだけ」
「戸惑わなかった訳じゃねーけどな。この天パが遺伝したらと思うと余りのプレッシャーに絶句もすらァ」
「困った?」
「困ることなんて何もねェよ。名前がかーちゃんで俺がとーちゃん、神楽は姉貴面しやがりそうだし眼鏡は眼鏡だ、悪いようにはならねーだろ」
「うん……そうだね、本当にそうだね」

銀時が名前の目と目の間に音を立ててキスをすると、そのお返し、とでもいうように名前が銀時の唇の端に悪戯っぽくその唇を掠めてきた。


▽▽▽▽▽


「おはようございます。あれ、名前さん銀さんまだ寝てるんですか?」
「寝てるっていうか……

落ち込んでるっていうか、最後まで言葉を続けることなく、名前は下腹部の痛みに顔をしかめつつ手のひらの薬を水と一緒に喉へ流し込む。
この薬は腹痛によく効く薬だ。そう、名前は妊娠してはいなかった。

「あれ、名前さん具合でも悪いんですか」
「ううん大丈夫、たいしたことないから」
「本当ですか? 無理しないでくださいよ」
「ありがとう」

名前の浮かべる可憐な微笑みに、新八がはにかみながら照れくさそうに視線を逸らす。

「銀さん起きてこないですね」
「そうだね」

薬局が開いたら妊娠検査薬を買いに行こう。
そう決めて昨晩は子供の名前のことだとか遺伝のことだとか天パのことだとか性別だとか、
ふわふわとした現実味の無い甘い妄想を、銀時は名前をいつものようにその腕に抱きしめ、希望だけが先走る眩しい未来を夢想しながら眠りに落ちた。

そして朝、銀時が目覚めた時、名前の心底申し訳無さそうな顔が目に飛び込んできて、すぐさま悟る。
ああ、子供はできていなかったのだと。遅れていたものがきてしまったんだと。
絶望とまではいかないが、相当ガックリしてしまったらしい。
そうしていつまでも布団から出てこようとしないので名前も困っているのだ。

「依頼主さんとの約束の時間に遅刻するわけにもいかないから、神楽ちゃんと先に行っててもらえるかな? 私はもう一度銀さんを起こしてみるから」
「わかりました、よろしくお願いしますね」
「うん、まかせて」

神楽と新八と定春を送り出すと、名前は銀時の寝ている部屋の襖を静かに開ける。

「銀さん」
「………………」

正座して銀時の布団を揺らすと、布団の中からひょっこり顔を出した銀時が、甘えるように名前の膝の上に頭を乗せてくる。
寝癖と天パでふわふわとした銀時の髪の毛を名前は優しい眼差しで愛しげに撫ぜ続けた。




あおい様よりいただきましたリクエストで、
「銀さんの長編の番外編。ヒロインちゃんに妊娠疑惑が出て、銀さんがてんやわんやするけど、結局妊娠してなかったというお話」
でした!張り切って書かせていただいたところ、気がついたら銀さんが一人浮かれて暴走して落ち込んでるお話になっておりました。あれっ。
微妙にリクエストからズレているかもしれませんごめんなさい。
少しでも楽しんでいただけたら嬉しいです。
あおい様、素敵なリクエストをどうもありがとうございました!私も書けてとても楽しかったです。
これからもどうぞよろしくお願いいたします。

いがぐり

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