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企画
とある子煩悩なイケメンのお話(藤)


※未来設定です。子供も居ます。


「ったく、無防備な寝顔してやがるぜ」

麓介の柔らかな声が耳に落ちてきて、そうかうっかり昼寝しちゃってたんだと浅く漂っていた眠りの淵から思考を現実へと戻す。
目をそっと開けると、緩みきった麓介の顔が上斜め横に見えた。
ベッドに上り片手を付き前かがみになった格好で、瞳を細めて視線を落とし、愛しくて愛しくてたまらないという表情をしている。

「オメーの笑顔を見たくて打ち合わせ先から寄ってみたってのに、幸せそうにグースカ眠っちまってるし」

拗ねたような口調でも相変わらず瞳は優しい。
麓介は、まるで触れるのも躊躇うような美しい桃でも触るように、指先をそっと綺麗な曲線を描くきめ細かな肌をした頬に当てた。

「手は洗った?」
「おー、石鹸で洗ったしうがいまでしたぜ。こいつが風邪なんてひいたら嫌だしな」

キリッと真面目な顔をして、麓介は視線を私から愛しくてたまらない対象へと戻す。
そう、さっきから甘い声で囁きかけている相手は私ではない。
私の隣で眠っている私達の子供だ。
麓介は指先を子供の頬に当て、その弾力を確かめて何ともいえない笑みを浮かべる。
恋人の時でも新婚の時でも見たことが無かった、子煩悩そのものな父親の顔の麓介を見るのは嫌いじゃない。

「どこぐらい時間あるの?」
「ちょいと山蔵に会わなきゃなんねー用があってさ。すぐ出なきゃなんねーんだけどこいつ起きねーかな」
「その用って何時から?」
「約束した時間は10分ぐれー前だな」
「ちょっと、帰ってきてる場合じゃないじゃん!」
「いーんだよ」

麓介は名残惜しげに子の頬から指を離し、私に向かって笑う。
私もそんな麓介に笑顔を返すと、少しだけ麓介の表情の色が変わった。

「名前に引き止められたって言ったら許してくれんだろ」

なによそれ、と言おうとしたけれど、私の瞳は正直だったらしい。
麓介のすっと通った鼻筋のその頂が私の鼻先に触れてくる。
ゆっくりゆっくりと距離を縮め、軽く触れられた唇に心が弾んだ。
もう少し深く重ねて欲しいと麓介の華奢に見えるけれど逞しい肩に両手を乗せ、綺麗な瞳を覗き込みながらねだるように唇を開けたところで、
んー、なんだか、むー、なんだかはっきりとしない声に麓介の顔がバッと私から離れる。
口をへの字にする私とは反対に、やっと起きたのかと麓介が目を輝かせたものの、ただ寝返りを打つ際に洩れた声だったらしい。
麓介のがっかりした顔にぷっと笑ってしまった。

「この子、睡眠欲は麓介似だから当分起きないって」

励ますようにぽんと麓介の肩を叩く。頭もなでなで。
「名前ー……」と縋るように私の首筋に顔を埋めてくる麓介を抱きしめた。

「なあ名前、山蔵と会うの明日にしてもいいと思うか?」
「いいわけないでしょ」
「クソ、サボりてーな…支店のことは俺に任せるっつったクセにしょっちゅう口出してきやがるから鬱陶しいぜ」
「きっと心配してるんでしょ」

麓介が海外に支店を出したのは私達が結婚する前のことだ。
順調に行っているその支店の経営を他に任せた麓介は、今度は日本の新たな場所に支店を出す為かなり忙しい。
それでも疲れた顔を見せずにいつも笑顔を見せてくれるのは、この子の力が大きいからだと思う。

「速攻で帰ってくるかんな、今夜は三人で風呂入んぞ」
「はいはい」
「この前みてーに先に入ったりすんなよ」
「わかった」

あー行くの面倒くせー!とベッドから降りて伸びをする麓介の細い腰を見たら愛しくてたまらなくなって思わずぎゅっと抱きついてしまった。




ヒロ様リクエスト、藤くんが子煩悩すぎる話でした!
いかがでしたでしょうか、ヒロさんの理想とする子煩悩な藤くんになっていればいいのですが…。
とても楽しく書かせていただきました!
リクエストどうもありがとうございました!
いがぐり

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