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企画
小さなクリスマスツリー(土方夫婦)


小さなコタツの上に、小さなクリスマスツリー。
オーナメントなんてつけられないサイズの、緑のもみの木にぐるりと金色のリボンがかけられ赤や緑の球体がかろうじてくっついている、そんなツリーを名前は毎日飽きもせず幸せそうに眺めていた。


このクリスマスツリーは去年、名前が商店街の福引で当てたものだ。
福引をしたことも、クリスマスツリーというものを手にしたことも初めてだった名前は、
ネギやら豆腐やらを覗かせた買い物カゴを持ったまま、愛する夫にこのことを報告しなければと頬を真っ赤にして真選組屯所に駆け込んでいった。

「十四郎さん十四郎さん大変です!」

普段は屯所へ来るなと言ってあり、その言いつけをしっかり守っている名前が目の前に現れ、
一体何があったのかと土方は鋭い瞳に焦りを混じらせつつ「どうかしたか」と名前の両肩に手を置いた。
その際にさっと身体を上から下まで、怪我などしてないか、どこも汚れたりしていないかチェックする。
その時、名前が両手でしっかりと持っている派手に包装された箱を見て、土方は眉間に皺を寄せた。

「オイ名前、何持ってんだ」

危険なものでも運ばされたんじゃ、そう思った時、名前の桃色の唇が開いた。

「福引でクリスマスツリーを当ててしまいました!」

二人の間に数秒間の沈黙が走る。
その数秒間のうちに、傍に居た山崎がさっと逃げていった。
土方は懐から煙草とライターを取り出し火を点ける。

「……それで?」
「7等だったんです!」
「へえ、そう」
「まさかこんな凄いものをいただけるなんて夢にも思っていなくて感激しました」
「ふーん、よかったね」
「はい!折角なのでお家に飾ってもいいですか!?」
「構わねーが…。ひょっとしてオメーそんなくだらねェことをわざわざ聞く為に、んな息切らして駆け込んできたんじゃねーだろーな」

呆れ交じりの土方の言葉に、名前はようやく自分と土方の温度差に気付いたようだ。
真っ赤だった顔を青くして、瞳を潤ませ土方を見上げる。

「ごめんなさい、わたし、とても驚いてしまって、クリスマスツリーというものを初めて手にしたものですから、十四郎さんにご報告しなければと」

心から申し訳無さそうにすみませんとしきりに謝る名前に土方の心がチクリと痛んだ。
何も名前を責めようと思っての言葉ではなかった。
政略結婚の道具として、世間から隔離され箱の中以外の世界を知らぬまま土方に嫁いできた名前。
クリスマスという行事に子供以上に目を輝かせていたのを知っていた。
冗談半分でサンタのことを話したら本気で信じてしまいそうになったほど純粋なのだ。
それなのにくだらないと、悪気は無かったにせよそう言ってしまったことに罪悪感がこみ上げる。

「名前」
「いけない、もう失礼しますね。お仕事の邪魔をしてしまって本当にすみませんでした」
「…っ、待て。見廻りついでに送ってっから」

ありがとうございます、とにっこり笑ってくれたので土方は一安心する。
しかし歩いてる間中、二人の間に会話は無かった。
名前は自分が世間を知らずに育ってきたことを、どこか恥じているふしがある。
恥じる必要などないのだ。ありのままの名前のことを愛しく思う。
考え無しに放った言葉で名前はどれだけ傷ついたことだろう。

「それ、どこに飾るんだ?」
「あ…何も考えてませんでした」

玄関の前で、名前は少し俯き気味に微笑む。
そんな名前の頭に手をぽんと乗せ、土方は言った。

「部屋の目立つところに飾っとけよ」

そして帰ってきた土方がちゃぶ台にちょんと乗せられたクリスマスツリーを見て、
よりによってちゃぶ台ィィィ!?と突っ込みそうになったがそこは根性でなんとか堪えた。
名前の幸せそうな笑顔を見てしまっては、もう何も言う気にはなれない。


そして今年のクリスマス。ちゃぶ台の上にはしっかりとその時と同じクリスマスツリーが置いてある。


「おい、茶ーもらえるか」

夕飯の片付けが終わった後、夕飯の時はさすがにコタツのテーブルから下げられていたツリーをいそいそと元の位置に戻し、
にこにことそれを眺めていた妻に土方が声を掛ける。
名前はそんな土方の言葉に、ハッと真顔になって慌てだした。

「あ、はいっ!ごめんなさい十四郎さん、私ったらお茶の用意を忘れてましたね」

ことりと湯気の立つ熱いほうじ茶の入った湯飲みを土方の前に置くと、身を寄せるように名前がこたつへ入ってきた。
頬杖をつきテレビを見ていた土方はお茶で喉を潤すと、ちらりと視線を妻に向ける。
そんな視線にも気付かず、名前の目線は常にツリーだ。
土方にふと悪戯心が湧き上がる。名前の腰に腕を回すと、名前のこめかみにそっと唇を当てた。
名前が土方を見上げるなりその小さな花びらのような唇を奪い、まだ夕飯のにおいの残るこの場所で着物を剥いでしまおうかと考えた土方の計画を打ち砕くように名前の声が上がる。

「あれっ、ちょっとこれ見て十四郎さん!」

名前の興奮した口調は性的なものとはだいぶ遠い。
ガクリと項垂れつつ、名前の指差す先を見る。
ツリーの幹の隠れた部分にスイッチを見つけたらしい。

「ななななんでしょうねこれ、もしやスイッチを入れたら………

名前の言葉を最後まで聞かず、土方は何のためらいも無くスイッチを入れる。途端にぼわりと赤と緑の光が浮かんだ。
キャー!と喜んでいるんだか驚いているんだかの叫びを上げ、名前はしらけ顔の土方に抱きついてくる。

「こんな仕掛けが!去年は気付かなかった!」

はいはいよかったね、と土方は名前の腕を優しく解くと、立ち上がり部屋の電気を消す。
土方が立ち上がった意図が掴めずぽかんと見上げていた名前が、暗くなった部屋に浮かぶツリーの輝きに可愛らしい声を上げた。

「どうだ、こっちの方が綺麗に見えるんじゃねえか?」
「素敵!」

再びコタツに入ってきた土方にぎゅっと抱きつく。
柔らかな名前のにおいが土方の情欲をくすぐってくる。
幸せです、と微塵の照れも見せず本心からそう言って笑う名前を愛しく感じると共に本能が疼き、もう我慢できそうになかった。

「なんて綺麗……」

しかし土方の悶々と発情する気配に気付く様子も無く、名前は再び土方からツリーに視線を向けてしまう。
そんな名前の桃色の唇を今度こそ食い逃すまいと、土方は飢えた獣のような気持ちになりながら名前の唇を強引に塞いだ。






まみ様よりいただきましたリクエストで、
“ゲロ甘土方夫婦。無自覚な奥様に悶々と若干ムラムラし出す土方さん。”
でした!いかがでしたでしょうか、土方さんったら若干どころか全開ムラムラして襲っちゃってますけど。
とても嬉しいリクエスト、どうもありがとうございました♪
これからもどうぞよろしくお願いいたします!
いがぐり

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