企画
悩み事なら俺に任せてみなって
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※長編の「EDGE OF THIS WORLD」の設定ですが、読んでいなくてもおそらく大丈夫だと思います。
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「お、なんだコレ、超うめェじゃねーかババア」
スナックお登勢にてカボチャと小豆を砂糖と醤油で煮た一品を出された銀時が、目を輝かせ物凄い勢いでそれを平らげていく。
そんなに焦らなくても消えやしないよ、とお登勢がお代わりを出した。
「カボチャのいとこ煮ってやつだね。昼間名前が持ってきてくれたんだ。“今日は長谷川さんと飲むみたいだから、銀さん用のお酒のアテに”ってさ。いい娘だねェ」
お登勢の言葉に、銀時は「だろ?」と自慢げに笑うと、口の端についたカボチャを指で拭い舌で舐めとった。
「マア、ワタシニハ負ケマスケドネ」
「寝言は寝てから言えやキャサリン。俺の名前ちゃんはなァ、俺なんかにゃもったいねえ最高の女なんだよ」
「そりゃ言えてるねぇ」
「まあな。すげえんだぞ。飲みに行くつっても嫌な顔ひとつしないんだぜ。笑って“いってらっしゃーい”って言うんだぜ。キャバクラ行ったのバレた時も“そっかあ”でそれ以上何も言わないんだぜ。言ってくれないんだぜ 」
沈んでいく表情とは裏腹に、出てくる言葉が徐々にヒートアップしてくる。
そんな銀時にお登勢はおやおや、という顔で煙草をふかした。
銀時の横に座る長谷川はというと、サングラスの奥の目を興味深げに細めつつ杯を傾けている。
「なあ、どういうこと? 心が広すぎない? つーかあまりに平気そうに笑ってっから逆に心が痛むんですけど! もーちょっと嫉妬とかしてくれてもいんじゃねーのォォォ!!!」
「まあまあ銀さん、悩み事なら俺に任せてみなって。人生の先輩であるこの俺に」
「……奥さんに逃げられた無職のマダオに任せてどーなるってんだ」
「要するにアレだろ、名前ちゃんが無理してるんじゃないかってさ、心配してんだろ銀さんは」
長谷川の言葉に、銀時は酒を一息に飲み干し真顔ではあと深い溜息をついた。
「名前は嫌なこたァハッキリ嫌だっつーけどな、時々自分を抑えて我慢するとこがあんだよ。今日も上で寂しがってんじゃねーかな」
「だったらここに呼んでおやりよ」
「とっくに誘ってるっつーの。けど“お酒飲めないし、男同士の楽しみを邪魔したくないから”だってよ。なあ、かわいくね!? 俺の名前ちゃん世界一じゃね!?」
「相談したいのか惚気たいのかどっちなんだい」
呆れまじりの口調でも、お登勢の表情はどことなく柔らかかった。
酒にも女にも、おまけに生活態度もだらしのなかったチャランポランが、一人の娘でここまで変わるとはね、と
長い付き合いの中銀時を見てきたお登勢が煙草の煙を細長く吐き出しながら笑う。
「なあなあ銀さん、これから上の名前ちゃんの様子見に行ってみたらどうよ」
「これから?」
「意外とケロッとしてるかもしんねーしさあ、寂しそうだったらもう帰ってあげたらいいじゃん」
▽▽▽▽▽
(って言われてきてみたものの……)
時刻はまだ20時過ぎ。
いつもなら新八はとっくに帰っている時間だが、玄関には可愛らしい花柄の鼻緒のついた名前の草履の隣にはまだ新八の草履があった。
それを無言で数秒間見つめた後、銀時は新八の草履だけ蹴り飛ばす。
ちゃっかり自分のブーツを名前の草履の隣に並べると、そろそろと玄関を上がり足音を立てないように廊下を進んだ。
(チ…神楽が居るつってもこんな時間まで何やってんだ新八のやつ)
廊下と事務所を隔てるガラスの引き戸に自分の姿が映らぬよう注意しながら壁へ身体を張り付かせ、銀時は中の様子をそうっと窺う。
その時、厠や浴室へ繋がる戸の方から下手糞な歌声が聞こえてきた。
どうやら神楽は入浴中らしい。
(ってことは、いまこっちの部屋ん中にゃ名前と新八二人きりっつーことか)
「ありがとうね新八くん、銀さん居ない時じゃないとこんなことできないから…」
(こんなことってどんなことォォ!? まさか名前に限って眼鏡と浮気………)
「いえ、僕も楽しいですから。見てくださいよこれ」
「わ、すごい…!とっても長いね新八くんの」
(ナニがァァァ!?)
銀時の姿を映さないように壁にへばりついているため、中の光景が見えない。
声だけがハッキリと銀時の耳に入ってくるそのもどかしさに、だらだらと出てくる冷や汗がこわばった頬をつっと流れていった。
「そろそろ繋いでみましょうか」
「新八くん、はやく……!」
期待に満ちた名前の声に心臓が握りつぶされるかと思った。
繋ぐ? 何を。…ひょっとして身体!?
いやいやいや、冷静に考えたら自分をとことん愛する名前が浮気なんかするはずがない。
銀時は名前のことを心から信じていた。
しかし目と鼻の先でこんな会話をされては頭に血が上るのも無理はない話で。
「ちょっと待ったァァァァァァァ!!」
そう叫びながら、銀時は半分泣きそうな顔で中へ踏み込んでいってしまった。
するとそこには銀時が想像した最悪の光景が広がって…
いるはずもなく、向かい合って座るソファで、折り紙で作った輪っかを手にいきなり飛び込んできた銀時をぽかんと見つめる名前と新八が居た。
「銀さんッ!?」
「えーっ、お、お、おかえりっ、早かったんだね」
名前がわたわたと自分達が作っていたものを隠そうと必死になって腕の中にそれをかき集めるものの、腕の隙間からはカラフルな色が洩れてしまっている。
そう、そこには折り紙で作った輪っかやらティッシュで作った花飾りなどが机の上いっぱいに広がっていた。
銀時はこの光景に一瞬にして全てを悟った。
全ては銀時の為に、主役に知られないよう内緒で頑張って作ってきたのだろう。
“HAPPY BIRTHDAY”なんてわざわざ文字を切り抜いて下から別の色の折り紙を貼った、ダサく下手糞ながらも一生懸命作ったんだろうなという飾り。
細かな細工で手の込んでいることがひと目でわかる華やかな折り紙のオーナメント。何故か折鶴もいたりする。
それら目にした瞬間、どんな顔をしていいかわからなくなり銀時は素早くくるりと後ろを向いた。
「俺ァ何も見てねーかんな」
二人が口を開く前にスタスタと廊下を歩く。
待って、と名前に声を掛けられても今の銀時には恥ずかしくて恥ずかしくて聞こえないフリをするので精一杯だった。
そうやって顔を合わせず無言で焦ってブーツを履こうとする銀時のその背中に、名前がふわりと抱きついてくる。
「わ、忘れ物取りにきただけだかんな俺は」
「電話してくれたら渡しに行ったのに。それで忘れ物ってなあに?」
「……忘れ物っていったらアレだろ、うん、アレだ」
ふふ、と名前のゆるやかな笑い声が銀時の耳朶を羽根のようにくすぐる。
「せっかく帰ってきてくれたのに、また出掛けちゃうつもりなのかな銀さんは」
「……なあ、寂しいから行かないでーとか嬉しいこと言ってくれちゃったりすんの?」
銀時の肩の上にちょんと乗っている名前の顎の下に銀時が指をそっと添えた。
そしてゆるりと微笑む名前の桃色の唇を噛み付くように奪う。
「うん、寂しいから今日はもう行かないでほしいな」
「俺に居て欲しい?」
こくりと頬を染め頷く名前から視線を離さず、銀時は履きかけていたブーツを落とす。
名前の方を向き、正面から抱きしめた。
「銀さん、私、銀さんと一緒に夜中までやりたいな……」
「マジでか」
「なんて、冗談だよ。ごめんね、いくらなんでもこんなお願い図々しいし」
「んなことねーよ。名前のお願いなら銀さん張り切って朝までだって頑張っちゃいますけど」
艶めいた期待に胸を躍らせながら、銀時は鼻の下を伸ばしているのを悟られないよう、名前に低く甘く囁きかける。
「本当!?」
しかし銀時の胸の中から顔を輝かせた名前がパッと顔を上げたその表情を見て、なんかおかしいぞと銀時が嫌な予感に微笑をぎこちなくさせたその瞬間
「主役なのにお誕生日会の準備を手伝ってもらっちゃうなんて本当に悪いんだけど、もう見られちゃったもんね。でも、やっぱり銀さんは優しいなあ」
銀時の微笑が完全に凍りつく。
しかし「ありがとうね」と名前に頬に軽く唇を当てられると、凍りついた表情が瞬時にでれっと解凍された。
風呂から出てきた神楽が、ほわほわと上気する頬にタオルを当てながら、さっきまで居なかった銀時が神妙な顔でチマチマと鶴を折っている姿を見て笑った。
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