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企画
こんな事しかできないですけど


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※長編の「EDGE OF THIS WORLD」の設定ですが、読んでいなくてもだいたい大丈夫だと思います。
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十月十日が近づくにつれ、じわりじわりと盛り上がりだす周囲の空気に銀時の心は何ともこそばゆい気持ちになる。

遠い記憶の中で一番最初に浮かぶ誕生日の思い出といえば、柔和に微笑みおめでとうと言ってくれた己の師と、机を並べ共に学び後に刀を手に戦った仲間達だ。
戦いの最中でさえ、仲間達はその日がくれば短くぶっきらぼうな祝いの言葉を投げつけてきたものだ。
今はもう歩む道の違うかつての仲間は十月十日が何の日か忘れてしまっているかもしれないが、もらった言葉は忘れない。

ここ数年は、浴びるほどにタダ酒が飲める、羽目をはずして騒ぎまくる日、としか認識していなかった銀時だが、今年はいつもと違う気持ちを持っていた。

「毎年、盛大にやるんだってね。銀さんのお誕生日会」
「あ、そっか、名前さん、こっちへ来てまだ一年経ってませんでしたね」
「そうなの。今年が初参加」

ソファに寝転がりジャンプを顔に載せた銀時の横で、名前と新八が楽しげに自分の誕生日のことについて喋るだけでウアアア!と叫んで起き上がりたくなる。

生まれたことを祝われるような人間じゃない、なんて言わない。
言わないが、有り余るほどの幸せに思考がついていけなくなる。

今の自分はきっと泣きそうな顔になってるだろうと、その込みあがってくる感傷をジャンプの紙面に向かってふうと吐き出したところで
「銀さん、起きてるの?」と名前にひょいと顔に乗せていたジャンプを取られてしまった。
互いに顔を合わせ息を飲む。

「ッ、えと、なんだ、……いま起きたとこ」

浮かんでいた情けない表情を誤魔化そうと、銀時は名前に向かって取り繕うかのような笑みを浮かべる。
名前は、そんな銀時の表情をじっと深い瞳で見つめた後、両膝を床に着き顔を近付けゆるく微笑んでぺちんと銀時のその頬に手のひらを当てた。
そして眉間にふんわりと唇を押し当ててくる。

「今までお祝いできなかったぶん、たくさんお祝いさせてね」

名前に過去のことは話していない。
しかし周囲に口止めしている訳ではないから、他から切れ切れに耳にはしているだろう。
聞かれたら何も隠さず話すだろうが、名前は今まで一度も聞いてきたことがなかった。
刀なんて、飛び散る流血なんて見たこともない、毎日が戦いなんて日常を知らない平和な世界に居たのだ。
そんな名前が自分の過去を知ってもし離れてしまったらという不安から無意識に“聞かないでくれ”という雰囲気を出していた銀時に、控え目でどこまでも優しい名前がそんなこと聞いてくるはずがない。

「銀さんを泣かせたいんですかコノヤロー」

腕を伸ばし、名前の頬に触れた。
首の後ろをくすぐると、くすぐったがりの名前がひゃあと可愛い顔をして身をすくめる。
唐突に、名前に何もかもをさらけ出したいと思った。
屍の中から己の魂を救い上げてくれた松陽先生のことも。
先生を失い白夜叉として戦場を駆けた記憶も、名前に全て知っていて欲しい。
今なお苦しい過去の傷も、目を閉じれば浮かんでくる悲惨な光景のことも、名前なら全て受け止めてくれると思った。
こんなどうしようもない自分を真っ直ぐに愛してくれる存在だから。

「ねえ銀さん、今年は新八くんのお家でお誕生会するんだって」

ふうん、と生返事をしながら、銀時は名前の身体に縋りつくように腕を回す。
胸元に頬を寄せる銀時の頭を名前が細い両腕でしっかりと包み込んでくれた。
幸せなぬくもりにうっとりと目を細めたところで、少し離れた場所で新八が血管を浮き上がらせている姿に気付いた。

「また昼間っから何やってんですかアンタ!」
「るせーな新八、それより頼みたいことがあんだけど」
「なんですか。僕が邪魔だから二人きりにしろっていうんじゃないでしょうね」
「それもあるけどな、…10日によォ、神楽お前ん家に泊めてくんねえか」
「ああ、そのことだったら僕と姉上も考えてましたよ。夜は名前さんと二人きりで過ごしたいでしょうし」
「……あんがとなぱっつぁん」
「こんな事しかできないですけど」

人差し指で鼻先をかきながら、新八が照れ混じりに笑う。

「で、そろそろ出てってくんね?」
「ちょっとー!今のちょっとイイ感じの空気台無しにすんなァァァ!!」
「え? 見たいの? 銀さんこれから狼になって名前を食っちゃうけど、見たいの新八くん」
「だめだよ銀さん、これから新八くんとお妙ちゃんと銀さんの誕生パーティーの計画立てるんだから」

銀時の髪の毛をよしよしと撫ぜてから、あっさりと名前が離れてしまった。
ったく、と銀時は小さく溜息を吐き、もう一度ジャンプを顔に乗せると、ひらひらと力なく名前たちに向かって手を振る。

「ケーキはでっけーの頼むわ。生クリームたっぷりな」

何も焦る事はないのだ。話すのは誕生日の夜でいい。
ジャンプの下でそっと微笑むと、銀時は一眠りする為にその目を閉じた。





前にツイッターで幻水2の挿入歌「あなたと出会い生をうけ、あなたを失い死を知った」が銀さんの思う松陽先生のイメージと呟いたんですが、
屍の中に居た子供の銀さんを松陽先生が救い、生きる道を与えたあの時こそが、今の坂田銀時がうまれた時と言うかなんというか、うおー、まとまらない!
誕生日の話を書くなら絶対に松陽先生のことも絡めたい思っていたので、書けて大満足です。

9/26 いがぐり
追伸、14時にどうしても我慢できず加筆修正しましたすんません。

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あきゅろす。
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