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企画
海に行きましょう・前編 (藤)


※高校生設定です


麓介とは中学の頃からの付き合いだ。
昔からそのルックスで女子に物凄い人気だったけれど、高校に入りモデルとして雑誌に載るようになってから更にそのファンは増えた。
高校に入学してから貯金に精を出すようになっていた麓介は、気がつけば私と過ごす時間をモデルのバイトに費やしていて、
「なんでそんなにバイトしてるの?」と聞いても「別に。金はどんだけあっても困ることねーだろ」という。
いや、困るよ。お金があったって一緒に遊びに行く時間もないじゃないか。

高校二年の夏休みももう数日で終わろうとしている。
付き合いだしてから、毎年暑いから外になんて行きたくないという麓介を強引に海に連れ出していた。
日中は嫌だ。水着なんかになりたくない。
それでもいいからと、夕方に到着するように電車で海まで行き、ほんの一時間くらい海で遊ぶのだ。
なんだかんだ文句を言いながらも、波打ち際で二人裸足になってさらさらする砂を踏みしめながら波で遊ぶと自然と笑顔になった。
手を繋いで潮のにおいを胸にすいこみながら散歩した。
楽しい夏の約束事だった。


▽▽▽▽▽


夏休み最後の土曜日。明後日から新学期。
普通だったら長期休暇に慣れきった心が憂鬱一色になる最後の週末だというのに、私は朝からご機嫌だった。
麓介がやっとこの日、バイトではなく私の為に一日空けてくれたのだから。
私は麓介に構ってもらえなかったこともあって、思いのほか早く宿題が終わっていたので友達と遊んだり週一でバイトしたり、それなりに楽しい夏休みを過ごしていた。
だけど麓介に会えないというのは相当さみしくて、この日をひたすら楽しみにしてきた。
ちなみに明日の日曜日、麓介はたまりにたまった宿題をやっつける日なのだという。
あ、麓介の宿題は手伝いませんよ。これは夏休み中彼女を放っておいた麓介へのバツなのです。

薄く化粧をして、とっておきの服を着て、あとは迎えに来るのを待つだけという約束の30分前。

『悪ィ名前、急なバイト入っちまった。海はまた今度にしてくんねーか? なあ、一生のお願い』

麓介からかかってきた電話に憂鬱通り越して最悪な気分に襲われた。
泣き出さないように、唇を噛みながら声を絞り出す。

「今日は海に行くって約束だったでしょ。バイト、断ってくれたって…」
『仕方ねーだろ、急病で代わりみつかんねーからってバイト料上乗せしてくれるって言うからよ』
「楽しみにしてたのに」
『行かねーなんて言ってないだろ? 海なんていつでも行けんだから、んな怒るなって』

麓介は本当に簡単に適当なことを言う。
いつでもいけるならどうして夏休み中全然会えなかったの?
学校始まったって、土日はみっちりバイトの予定入れてるくせに。

「……そっかあ。わかった、頑張ってね」

もう怒る気力も湧きません。
麓介が何か言いかけていたけれど、もう用事は終わってるよなーと何の表情も浮かんでこない虚ろな瞳で携帯電話を折りたたむ。
頑張ることが嫌いな麓介。面倒なことからすぐ逃げる麓介。
そんな麓介が、バイトだけは真剣に、面倒がらずやっているのだ。
彼女である私が応援しなくてどうする。
私のさみしいなんて感情、麓介にとってそれこそ面倒だなと思われかねない。
けど

「私って、麓介にとってなんなんでしょうねえ……」

もうとっくにただの腐れ縁というだけの繋がりなんだろうか。
さっきから鳴り止まない着信音がうるさくて、力の入らない腕を上げベッドへ携帯を放り投げた。


▽▽▽▽▽


「もう麓介と別れることにした。私ばっかり好きみたいで疲れたし」
『何言ってるの! 名前が藤くんと別れられるわけがないじゃない。それに名前が居なかったら藤くんなんてただのイケメンよ!』

電話越しだというのに元気の塊のような声が私の鼓膜を突き抜ける。

「だから私なんか居なくてもいいんだって。シンヤだって酷いと思うでしょ?」
『確かに酷いけど、藤くんのおうちってお金持ちじゃない。中学の頃は全然お金に執着することなんてなかったのに、どうして急にそうなったんだろうね』
「知らない」
『んもー、男心なんて私にはわからないけど、何かお金を稼がなきゃならない事情でもあるんじゃないの?』

そんな事情なんてあるのかな。
麓介の家は相変わらずよくテレビで見かけるし、むしろ儲かりすぎてはやく麓介に早く経営の仕事を覚えさせようとしているみたいだ。
うーん、お金に困ってるなんてありえない、と思う。

「男っていえば、シンヤとエロっちゃんってどうなってるの」
『その呼び方やめなって……』

エロスという名で怪しい開放団体に所属していた女の子にしか見えなかった男の子。
高校に入ったらちょっとオネエが入った綺麗な男の子になった。
シンヤとは男女を越えて仲が良いように見えるけど、恋愛関係じゃないみたい。
でも二人いつも一緒でわいわいきゃあきゃあ楽しそうで、とてもうらやましかった。

シンヤに麓介の愚痴を言うだけ言って電話を切った。外はもう真っ暗だ。
うわ、何気に見てみた着信履歴に唖然とした。
着信が全部麓介で埋まってる。もーなんなの、バイト真面目にやんなさいよ。メールもいっぱい入ってくるし。うざい。
電源を切り、もぞもぞとタオルケットを頭から被る。
ねようねよう。明日は夏休み最後の日だ。
麓介に電話して別れ話をしよう。そうしよう。





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後編へ続く!

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あきゅろす。
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