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企画
笑顔 (笹塚)

深い眠りから目覚め、自分の家じゃない天井が目に映ると私はたまらなく幸せな気分になる。
そっと、本当にそっと、シーツが擦れる音すらさせないように慎重に横を向く。まだ眠ってる笹塚さんが居るからだ。
身体をこっちへ向け、自分の右手に頭を乗せてすうすうと静かな寝息を立てている。
あ、枕、思いっきり私が取っちゃってたんだ。
こうして笹塚さんの家に泊まるのも、もう三度目になる。
無意識とはいえ枕取っちゃってたなんて、図々しいと思われてたらどうしよう。

(わ、かわいい)

三十一歳の男性にかわいいという形容詞はどうなのと弥子ちゃんだったら突っ込んでくるんだろうけど、眠ってる笹塚さんは本当にかわいかった。
すべての疲れや悩みやなんかから開放されているようで、目の下のクマだってちょっと薄く見えるよ。
男の人だなあ。ヒゲがちょっと伸びている。
あれっ、よく見るとこの前あった時よりなんだか少し痩せてない? 頬がこけてるように見えるんだけど。
触ったら起きちゃうかな。でもこれだけ熟睡してるから大丈夫かな。

そろそろと指先で笹塚さんの頬に触れてみる。
笹塚さんはぴくりとも動かない。
少し大胆になって、唇へ指を滑らせてみた。
この唇が昨夜私の唇に重なり、耳たぶや首筋を甘噛みし、熱い吐息で私の心をかき乱したのだ。

指先で触れても起きないならと、大胆な気分になって身体を伸ばしてちょんと笹塚さんの唇に自分の唇を重ねてみた。
柔らかい。もう一度したい。
再び控え目に押し付けると、少し開いた笹塚さんの唇が私の唇をしっとりと受け止めた。

え。

と思った時にはもう、深く唇が重ねられていた。
唇は熱い口付けを続けながら、笹塚さんが私の身体に覆い被さってくる。
何も身に着けていないたくましい胸板が私の胸に押し当てられ、心臓が跳ねた。

「……誘ってんの?」

そんなつもりはなかったので、正直に首を振る。
額をくっつけてる状態で小さくふるふる振ったので、触れ合う前髪が一緒に動いた。
吸い込まれそうな深い瞳。この瞳に受け入れてもらえるだなんて少し前までは思っていなかった。

「あー……なんか、よく眠れた気がする」
「すごく気持ち良さそうに寝てましたよ」

両手で笹塚さんの頬を挟んでみた。
このままむぎゅって力を込めてみたいけど、何をしても笹塚さんのポーカーフェイスは崩せない気がするなあ。
笹塚さんは私の顔をじーっと見つめて何か言いたげにしてる。

「いつもは眠っても熟睡なんてできねーんだよな。疲れる夢しか見ないから疲れも取れたんだか取れてないんだか」
「そうなんですか?」
「名前と一緒に眠ってるときは違うけど」

そう言った後、笹塚さんは瞳を優しく緩めにっこりと微笑んだ。
……!?
見間違いじゃなかろうかと目を見開いてまじまじとその笑顔を見つめる。
そんな私の驚きぶりを見て、笹塚さんがますます楽しそうに顔をくしゃっと崩した。

さ、笹塚さんが笑ってる!!

付き合いだして一ヶ月。私ははじめて笹塚さんのちゃんとした笑顔を見た。
弥子ちゃんから見たら、笹塚さんは私の前では十分柔らかな顔してるというけれど、いままで目元を僅かに細めるくらいで、笑顔を見たことが無かったのだ。

「笹塚さんも笑ったりできたんですね」
「それどーいう意味」
「いや、深い意味は…」

名前と居るとリラックスできるんだ、そんなことを耳に唇を当てて囁いてくるものだからたまらない。
身体がむずむずする。笹塚さんの指先がさっきからゆるゆると私の素肌をなぞってるからだ。

「あの、お腹空きません? そろそろ起きましょうか」
「んー…まだ」

私の首筋に顔を埋めていやいやをするように首を振る。
え、え、え、こんな甘えてくる笹塚さんも初めてだぞ!
甘く口付けてくる笹塚さん。可愛いやら嬉しいやらで朝から心も身体も大変なことになった。




リリー様からいただきましたリクエスト“笑う笹塚さん”でした!
こんな笑顔でよかったでしょうか…ニカッ★
付き合いたてホヤホヤの甘い二人、書いてて一人ニヤニヤしてしまいましたフヘヘヘヘ。
リリーさん、リクエスト本当にありがとうございました!
これからもどうぞよろしくお願いいたします。
いがぐり

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