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企画
拗ねた恋人 (派手須)

逸人は生徒の健康状態を何よりも心配する保健室の先生のくせに、自分の健康管理は全然なっちゃいなかった。

「ただでさえガリガリに痩せてるんだから、きちんと三食食べたらどうなの」
「いや……そんなにお腹が空くって感覚が無いからうっかり忘れてしまうことが多くて……」
「そのうち倒れるよ」
「そうならないよう気をつけるよ」

ぐつぐつとカレーを煮込む私の横で、逸人がサラダに使うレタスをひび割れた手で千切っていく。
手や顔のひび割れは逸人の内側に巣食う病魔のせいだとわかってはいるが、ビタミンや栄養を取ることで少しでもそれが緩和しないかなと期待してしまう。
だけど肝心の本人はそんなこと露ほども考えてなくて、いつもイライラしていた。

「レタス千切り終わったら氷水に入れて」
「はい」
「次はトマト切ってね。セロリも入れるから」
「はい」

タマネギ人参ジャガイモはもちろんのこと、ナスやパプリカ、インゲンにズッキーニ、それにオクラ。
夏野菜をこれでもかと入れたスペシャルカレーが出来上がろうとしている。
夏だというのに病的に青白い逸人の身体にこれらの栄養が浸透すればいい。

「そろそろレタスの水切りしてね、私お皿にカレー盛るから」
「わかったよ…」

のそりとした動作で、逸人はサラダ用のお皿を食器棚の高い位置から二皿取り出した。
薄い背中を見ていると無性に心配になる。ぽきりと折れてしまいそうで。
真夏に見てるだけで暑くなるような黒いシャツを着た逸人の背中にぎゅうと抱きついた。

「名前……?」

心臓の鼓動をきちんと感じる。この鼓動に冷血の鼓動も紛れていたりするのだろうか。
逸人にとっての心の支え。だけど私にとって冷血の存在は複雑だ。
カチャリと音がした。逸人が今取り出したお皿を元の位置に戻し、後ろから抱きつく私の手にかさついた手を重ねてくる。
所々ひび割れてるけど、かさかさだけど、ちゃんとあたたかい。

腰を抱く私の手を逸人がそっと外し、こっちを向くなり柔らかく抱きしめてきた。
そして私の唇をさり気なく奪うと、にっこりと顔を覗き込んでくる。
どこまでも優しいその眼差しは、生徒達へ向ける慈愛に満ちたものとは少し違う。
乾ききったように見えるけれど、普段表に出さない熱情を私だけに注いでくれる。それがたまらなく嬉しい。

「むかつく」

思わず洩れた言葉に「えっ!?」と逸人が目に見えて狼狽する。

「逸人なんてバカでボケでホラー顔で機械オンチなのに、どうしてこんなに好きなんだろう」

もう一度むかつく、と小さな声で呟いて逸人の胸に顔を埋めた。
その服の下、皮膚と肋骨の奥深くに冷血が居るのだろうか。

「名前に好きでいてもらわなくちゃ困るよ」
「うそ。もし私が逸人から離れても、意外とけろっとしてるんだよきっと」
「そんなことあるわけがないじゃないか」

バカだな、とどこか嬉しげに囁かれ強く抱きしめられる。

「私のことが面倒くさくなったら、この気持ち丸ごと咀嚼していいからね」
「それはできない相談だね」
「どうして」
「面倒だなんて思わない。名前は僕にどうしても必要な存在だから」
「冷血よりも?」

私の質問に、逸人はそんなこと考えもしなかったという表情で、本当にバカだな、と鮮やかな笑みを浮かべた。



裕香様からいただきましたリクエスト、ハデス先生の甘いお話でした!
ハデス先生は生徒には激甘ですが、経一にはツーンとしてるので、ヒロインにはその中間あたりの態度かなあと。
ハデス先生がちゃんと自分をさらけ出しつつヒロインを愛してる気持ちが出せていたらいいなと思いながら書いていたのですが、
あまり甘くならなくてすみません!!
裕香様、リクエストどうもありがとうございました!
久々にハデス先生が書けて嬉しかったです。
これからもどうぞよろしくお願いいたします。
いがぐり

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あきゅろす。
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