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企画
次の一歩 (踏み出したその先に 番外編)

「麓介、お風呂どうぞ」
「んー」

麓介は生返事をしながら読んでいた雑誌からちらりと顔を上げ、パジャマ姿の私に拗ねたような視線を送ってくる。

「そんなに一緒に入りたかったの?」
「全然」

私の言葉をしれっと一蹴すると、麓介はまた雑誌へ視線を戻してしまった。
まだちょっと拗ねてるなー。
私はそんな麓介の態度に構わず、ソファにぐでんと横になって雑誌を読んでいる麓介の腰に跨り上から麓介の顔を覗き込んだ。
綺麗な瞳が真っ直ぐに私を見つめてくる。
私の髪の毛の先から拭ききれてない雫がぽたりと麓介のすべらかな頬に落ちた。

「髪の毛くらいちゃんと拭いてこい」
「ごめんごめん」

麓介は雑誌を床へと放り投げ「ったく」と言いながら肩にかけていたタオルで私の髪の毛をぐしゃぐしゃと拭いてくれる。
痛い。でも嬉しい。

「ねえ、ごめんね」
「別に。……風呂、狭いしな」
「狭いからって理由じゃないよ」
「声響くからか」
「まあ、麓介って一度スイッチ入るとダメっていっても強引にくるからねえ」

よっ、と麓介が勢いよく上半身を起こしてきた。
私の太ももにさり気なく手を這わせつつ、くすぐるように唇でそっと私の耳たぶを挟んでくる。

「今日はできねー日なのか?」
「二人でお風呂にのんびりつかるだけならよかったんだけどね」
「んなこと俺にできると思うか?」
「そんな堂々と言われても」
「どう考えても無理だろ」
「確かに」

かぷりと耳を甘噛みされ、ひゃあと背筋を震わせる。
お風呂上りの私の身体はただでさえ熱を持っているのに、麓介まで焚き付けようとしてくるものだからたまらない。

「じゃあさ、俺が風呂あがったらベッド直行な」
「そんなにしたいの?」
「してーから誘うんだろが。お前のせいで抑えが効かねーんだよ」
「人のせいにしない」
「責任とれって。なあ、名前」

色っぽい視線で麓介は私を真っ直ぐに見つめてきた。
悪戯をする子猫のように、がじりと唇を噛む。
麓介のぬるりとした舌が私の唇をなぞっていく。
さりげなく私の服の隙間から手が差し込んできたかと思うと、洗いたての身体をさわさわと撫でてくる。いやらしく。

「ねえ麓介」
「んだよ」

仕方ない。明日ゆっくりと話そうと思ってたけど、このままじゃ押し倒されてしまう。
その前に話さなくては。
首筋に唇を這わす麓介を押しのけ、服を上げてお腹を見せた。
麓介は自分から脱ぎだしたのかと雄の目つきでにやりとしたけれど、

「赤ちゃん、できたかも」

と、私の放った言葉に目をまん丸にして硬直してしまった。
口を開けたまま麓介は動かない。
どんな顔をしてても麓介はイケメンだ。今の顔はまるで彫刻のようだよ。
おーい、と目の前で手を振っても、ろくな反応を返さない。
わからなくもない。生理が遅れていたことくらいで私も妊娠してるだなんて思わないくらい、身体は普段の調子と全く変わらないのだから。
だから、とりあえず確認しておくか、という気持ちで妊娠検査薬を試してみた。
見事に陽性反応が出たけれど、妊婦だなんて、ねえ。

「麓介、パパ、お父さん、とーちゃん」

どれだけ驚いてるの、もう。
ピクリとも動かない麓介に肩をすくめお腹を隠そうとしたら、すっと麓介の手が大事なものを触るようにお腹に手を当ててきた。

「マジでこん中に入ってんのか」
「朝、妊娠検査薬使ってみたらクッキリ反応出た。明日病院行ってくる」
「なんですぐ言わなかったんだよ」
「だって、反応出たとはいえ病院で検査するまでは確実ってわけじゃないからさ。本当は明日病院帰りに言おうと思ってたんだ」
「だからやんの避けようとしてたんだな」
「うん、一応。なにかあったら嫌だし」
「バカ、そういうことは早く言え」

がばっと麓介に抱きしめられる。
あー、マジかー、なんて嬉しさが抑えきれないような麓介の言葉。
広い背中に手を回すと、小さな声で「愛してる」と聞こえてきた。
それが私に向けてのものなのか赤ちゃんに向けてのものなのかわからないけど、幸せな気持ちで満たされた。
私たちはまた一歩、二人で新しい世界へと踏み出した。
願わくば、優しいこの気持ちがずっとずっと続きますように。


はにこ様リクエスト、保神長編「踏み出したその先に」の番外編でした!
私にとってこの長編は大変思い出深いものだったので、リクエストいただけて本当に嬉しかったです!
藤くんはどんなパパになるのでしょうねえウッフッフ。
はにこ様、とても嬉しいリクエストをどうもありがとうございました!
これからもどうぞよろしくお願いいたします。
いがぐり

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あきゅろす。
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