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企画
手紙 (沖田と年上女中さん)

「名前さん、名前さん宛てに手紙が来てやしたぜ」

一人厨房で夕飯の下ごしらえをしていた名前が、ふらりと入ってきた沖田に「あら」と言って笑みを向けた。
人参の千切りを一旦中断し、手を水でさっと洗うと沖田から差し出された手紙を受け取ろうと手を伸ばす。

「手紙なんて誰からだろう珍しいな。わざわざありがとう」

しかし予想に反して沖田が手紙から手を離してくれず、二人の間で手紙がぐぐっと引っ張り合う形になってしまった。
なんで? という不思議顔の名前に対し、沖田はどこまでも平然とした顔をしている。

「私宛なんだよね?」
「そうですぜ」
「どうして手を離してくれないの」

その言葉に沖田が一瞬口をむっと尖らせたように見えた。
しかしすぐににっこり笑って、まるで手紙から静電気を感じたかのようにパッと瞬時に手を離す。

「差出人が男ってのがちと気になってねィ」
「……あ、ほんとだ」

手紙をくるりと裏返し差出人の名前に目を走らせた名前の瞳に懐かしさが浮かぶ。
沖田がカチリと厨房にある火力の強いコンロの火をおもむろに点けた。そして火力を最大にする。
五徳にフライパンも鍋も乗せていない為、炎の熱がダイレクトに立ち上り顔がとても熱い。

「昔の男からの復縁の手紙だったら今この場で燃やしちまっても構いやせんよね」
「いやいやいや、昔の男とかそんなんじゃないから。この人私の幼馴染だから」
「なんで幼馴染が」
「んー、とりあえず手紙読んでもいい?」
「名前さんへの手紙だ、俺に許可取る必要なんてないだろィ」

そうは言っても面白く無さそうに腕を組み沖田は名前の傍から離れようとしない。
この幼馴染とは沖田に疑われるような過去は一切無いので、名前はコンロの火を消すと沖田にも見えるようにその手紙を広げた。
しかし沖田は男の意地かプライドか、ふんと厨房の隅のじゃがいも袋につまらなさげに視線を送る。
名前はそんな沖田に心の中で笑みをこぼし、手紙の文面に視線を落とした。

「結婚するみたいよ、彼。私にも式に出席して欲しいって」
「へえ。そりゃめでてーこった」
「もう、何を拗ねてるの?」

名前は読み終えた手紙を丁寧に折り畳み大事そうに懐へとしまうと、少しからかうように沖田の顔をそっと覗き込む。
拗ねていると図星を突かれたからか、表情そのものはむすりとしてるものの頬が少し赤い。

「俺ァ江戸に出てくる前の名前さんのこと、何も知らねーなと思いやして」
「そんな特別話すようなことは何も無いから話さなかっただけだよ」
「その幼馴染が名前さんに恋愛感情持ってたりしたっつーベタなことは」
「ありません」
「名前さんがソイツに惚れてたっつーことは」
「ありません」

実家の隣の家に住む家族ぐるみで親しくしていた年上の幼馴染の顔を思い浮かべつつ、沖田の質問に柔らかく笑いながらその嫉妬をひとつひとつ消していく。
沖田に嫉妬されることをどことなく喜んでいるかのような、そんな余裕さえ感じた。
焦る様子ひとつ見せない名前の楽しげな表情に、沖田は自分が危惧していたようなことは何も無さそうだとようやく素直な笑みを浮かべる。

「疑いは晴れた?」
「疑り深くてすいやせん」

そう言って自嘲気味に微笑んだ沖田は、名前の細い両肩に腕を伸ばすようにして肘を乗せ、こつりと額同士をくっつけた。
名前の艶めく桃色の唇は沖田を誘うようにゆるやかに弧を描いている。
沖田はその誘惑に素直に従うように瞳を閉じつつゆっくり唇を近づけていくと、名前が「あ、そうだ」と口を開いた。

「ねえ、沖田さんも一緒に行く?」
「行くって、名前さんの田舎にですかい?」

不意に放たれた名前の言葉に驚いたように、ふっと沖田が顔を離す。

「そ。私の田舎、何も無いところだけど沖田さんのこと幼馴染や両親に紹介したいな。沖田さんが嫌じゃなければ」
「そりゃ願ってもない話ですが……俺なんかを連れてっていいんですかい?」
「俺なんかって、どうしてそんなこと言うの」
「俺が年下ってことで親御さんに心配されちまうかもしんねーし。……ま、でも出発の日までに土方さんに死んでもらって副長になってりゃいいか」
「爽やかな笑顔で物騒なこと言わない!」

その突っ込みに沖田は爽やかな笑みを愛しげに深め名前を見つめた。

「何言ってんだ。俺は本気ですぜ」
「ただ沖田さんを紹介したいなってだけだから、そんな深く考えなくても」
「え? 俺ァ娘さんを俺に下せェってのやってやろうかと思ったんですがね」
「待って。何を暴走……」

唇の端をつり上げて沖田が不敵に笑う。

「折角親御さんと会う機会ができたんだ。もうこの際結婚しちまいましょうや名前さん」
「え、え、えええええ!?」

黙りなせえ、と沖田に唇を奪われる。
強引に重なってきた唇なのに、名前の唇は喜んでそれを受け入れていた。
ゆるやかに熱を上げていく口付けの最中、舌だけでなく吐息までも絡ませながら名前は頭の片隅で考える。
幼馴染への返事には、おめでとうという祝福と近況、そして追伸で自分も結婚するかもしれないと書こうと思った。



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こんなアホな私といつも仲良くして下さる茨紅様からのリクエストで
「年上ヒロインに拗ねながら甘えるような沖田くんのお話」でした!
上手く拗ねることができたでしょうかねエヘヘ。
全力で甘えん坊沖田さんを書かせていただきました。
少しでも楽しんでいただけたら嬉しいです。
素敵なリクエスト、どうもありがとうございました!
これからもどうぞよろしくお願いいたします!
いがぐり

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あきゅろす。
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