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企画
立ち読み卒業 (EDGE OF THIS WORLD番外編)

「おーい名前ー、まだかー?」
「んー、もうちょっとだけ……」

本屋の中の料理の本がずらりと並ぶコーナーで、名前はあるページをじっと眺め続けていた。
ちょっといやらしい雑誌を立ち読みし終えた銀時は、名前がやけに真剣に見つめているページをひょいと横から覗き見る。

「お、チョコレートケーキだとよ。たまんねーなこの写真。なあこっち作ってこっち」
「銀さんごめんね、今日はそのページじゃなくてこっちの料理のレシピを暗記しにきたんだ。銀さんに材料を暗記してもらえると助かるんだけどな」

他ならぬ名前の頼みなら、と銀時が材料に目を走らせる。
紅サケ、胡椒、ナツメグ、タマネギ、マッシュルーム、ニンニク、シメジ、白ワイン、セロリの葉…………。
ずらずらと並ぶその材料の多さに銀時は早々に暗記する気を無くした。

「復活の呪文並みに難解なんですけどコレ。暗記なんてぜってー無理。ってか買った方が早くね?」
「でもお料理の本って結構高いんだよ。ちょっとびっくりしちゃうくらい」

名前の持っていた料理本を何気なく裏返し値段を確認した銀時は、想像以上の値段に目を丸くする。

「なんじゃこりゃイチゴパフェが2杯食える値段じゃねェか!」
「ね、高いでしょう?」

サケに胡椒とナツメグで下味をつけて、タマネギとマッシュルームとシメジを薄切りにする…と小声でレシピを読み上げ頭に叩き込もうとする名前を見て銀時が目を細めた。
どうしてこんなに懸命になってんだと微笑ましく思ったところでそういえば、と思い出す。
昨日料理番組を見ていた神楽がサケの洒落た料理が食べたいと騒いでいたことを。
こうして名前が一生懸命“サケのオルロフ風”なるわけのわからない名前のレシピを暗記しているのは、きっと神楽の為なのだろう。
本屋で銀時が何冊もの雑誌を立ち読みしていた間、名前はずっとこのコーナーで自分に出来る範囲での凝った料理を探していたのだ。

「ん? どうしたの銀さん」

さすがに本屋のど真ん中で抱きしめるわけにはいかず、銀時は湧きあがる感情のままに名前の頭をぐりぐりと撫で回す。
痛くは無いがどうして突然銀時がこんなことをするのかわからない名前は、嬉しいような困ったような複雑な表情で銀時を見上げる。
その可愛らしい戸惑いの視線にコロリと負けた銀時は、結局持った本ごと名前を正面から抱きしめた。
唇に当てた名前の艶やかな髪の感触が心地良い。

「うし名前、今度は俺の為にあのチョコレートケーキ作れよな」
「うんいいよ。じゃあ次にきた時はそっちを暗記しようね」

銀さんも手伝うんだよ、と、銀時の胸から顔を上げころころと笑う名前の手から料理本を引き抜くと、銀時はスタスタとその本を持ってレジへ向かう。
「え、銀さん!?」と銀時のやろうとすることがわかり慌てた名前が銀時の着物の袖を引っ張った。

「買わなくてももうサケ料理は覚えたから大丈夫だよ。それにこれ買っちゃったら帰りに銀さんがパフェ食べられなくなっちゃう」
「いいんだって。パフェの代わりに今度チョコレートケーキ作ってくれんだろ?」
「でも、」
「でももヘチマもねェんだよ。俺が買いたくなっちまっただけなんだから気にすんな」

そうぶっきらぼうに言いながらポンポンと名前の頭を本で優しく叩いてくる。思わず手で頭を防御した名前にふっと微笑むと「ちっと待ってろ」とレジへ本を持っていった。



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紫苑様リクエスト「銀さん長編で、読んでて疲れがとれるようなほのぼのとしたお話」でした!
ほのぼの感が出ているといいのですけれど……。
脳の疲れには甘いお話がいいですよね。
でもこの話で疲れが取れるのかは保障できませぬ(笑)
紫苑様、書きがいのあるリクエストをどうもありがとうございました!
これからもよろしくお願いいたしますね。
いがぐり

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あきゅろす。
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