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企画
これからはちゃんと言うんだぜ

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※長編の「EDGE OF THIS WORLD」の設定ですが、読んでいなくてもまあきっと大丈夫だと思います。
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新八の家で行われている、こじんまりとした銀時の誕生日のパーティーの真っ只中。
大人たちは勝手に酒を飲み、主役を忘れ浮かれ騒いで酔いつぶれていた。
しかし珍しいことに、銀時は乾杯の時の一杯のみしか飲んでいない。

「名前さん、今夜は銀さんとどんなプレイをするつもりなの? アナタちゃんと銀さんの性癖にあわせて縛られたりできる? ムチで打たれて興奮できるの?」
「うーん、それは無理かも。ねえさっちゃん、コツとかあったら教えて」

招待したわけでもないのに、いつの間にやら紛れ込んでいた猿飛あやめが、ビールを片手に名前に絡んでくる。
銀時に見当違いの突撃をかまし、日々なじられて悶え喜んでいる猿飛のことを、名前は決して嫌いじゃなかった。
むしろ仲良くなりたいとさえ思っているのだが、銀時を挟んだ複雑な互いの立場では、なかなかそれは難しい。
しかしそれでもこの二人の仲が険悪にならないのは、名前の持つ柔らかな雰囲気のおかげかもしれない。

「私に任せなさい。まず三角木馬を二体用意して。それに蝋燭とムチも忘れずにね」
「うんうん」
「そして三角木馬に乗って銀さんに蝋燭とムチで責めてもらうの。大丈夫、私も一緒にプレイしてあげるから。銀さんに打たれてあげるから。本能に従って自分を解放しなさい。そうすれば新世界が見えてくるわ」
「なるほど」
「ねえひとつ勝負しない?銀さんをより興奮させるような鳴き方をした方が銀さんにふさわしい女ってわけ。どう? わかった?」
「わかるかそんなモン」

切り分けられ紙皿にどんと横たわる誕生日ケーキを片手に現れた銀時が、長い足で猿飛あやめを容赦なく蹴り飛ばした。
いやーん、と、どこか嬉しそうに、ごろんごろんと勢いよく遠くまで転がっていく。

「さっちゃんにあまり乱暴なことしちゃだめだよ」
「いいんだよアイツは。それよりコレ、一緒に食おうぜ」
「うん、ありがとう銀さん」

銀時の手から紙皿をひょいと取ると、フォークにケーキを乗せ、名前は銀時を見上げ「はい銀さん、あーん」と笑う。
当然のように銀時も「あーん」と腰をかがめ、だらしのない顔を緩ませ口を開けた。
嬉しそうにケーキを食べる銀時の姿をほくほくとした顔で見つめた後、名前も同じフォークでケーキを食べる。
美味しいねえ、美味いな。そんなやりとりひとつにどうしてこんなにも幸せそうにできるんだと、お妙や長谷川が酔った顔を更に真っ赤にして遠くから眩しげに見つめているのを二人は知らない。
「名前ー、もっと」と名前の肩を抱きながら、銀時が甘い声でケーキをねだる。

「このくらい?」
「もっとでっかく」
「いちごは?」
「生クリームんとこ」
「わ、口にいっぱいクリームついちゃった、ごめんね」
「舐めてくれたら許してやるよ」

んー、と唇を突き出して名前に迫る銀時の顔に、素早い動作でハンカチを押し付けた。
銀さんたら、酔ってるの? と可愛く名前が小首を傾げれば、酔ってない酔ってないと銀時が首を振る。
そんな二人の様子を見ていた新八は、相変わらずこの人達の空気だけピンク色に染まって見えるなあ、と、どんな場所でもお構い無しの二人に呆れつつ、ふっと笑みを零した。

「名前さんがお酒弱いからって、どうして銀さんがお酒我慢してるんだろうね神楽ちゃん」
「これだから童貞は困るネ。前に銀ちゃんベロベロになって帰ってきた時、そのまま名前にチューしたら名前の方がぶっ倒れたアル。今夜もそうなったら銀ちゃん悔やんでも悔やみきれないネ」
「へえ…そんなことが、って、神楽ちゃんその話に童貞とか関係ないじゃないか!」

神楽はそんな新八の突っ込みを無視し、口をもぐもぐさせつつ、じいっと二人をその透明な瞳で見つめていた。
そして唐突にこんな疑問を投げかける。

「そういえば名前の前の彼氏ってどんなヤツだったアルか?」

子供は自分の気になったことなら時も場所も状況すら何も構うことなく、平気でその疑問をぶつけてくるものだ。
神楽の言葉に名前は目を見開き、銀時はケーキを頬張ったまま瞳だけでチラリと名前の様子を窺う。

「私の勤めてた会社の同期だった人だよ」

名前は特に詰まるでもなく、さらりとした笑顔で返事する。

「名前の友達、一年前に別れたって言ってたけど、なんで別れたアルか」
「疲れたって言われちゃって。私、色々とうるさかったみたい」
「名前がうるさい? その男、馬鹿アルな」
「…俺も興味あんなァその話。いい機会だ、名前の過去、洗いざらい詳しく聞かせてもらおうか」

瞳の奥の嫉妬の色を隠しもせず、銀時は名前の顔を覗き込む。
そんな銀時の瞳に、名前はとくりと心臓が熱く脈打つのがわかった。嬉しいのだ。妬かれるのがとても。

「洗いざらいって、そんな深刻な過去じゃないよ」
「俺にはそうは思えねーけどな。いろいろと心当たりがあるもんで」
「心当たり?」
「名前ってよォ、俺がキャバクラ行こうが飲み歩こうが文句ひとつ言わねーじゃん、何でだろって思ってたけど、今の話じゃ前の彼氏と関係がありそうだな」

今まで引っかかっていた疑問をストレートに名前へとぶつけてくる銀時に、名前は困ったように眉を下げる。

「友達が多かったし、仕事も忙しくてあんまり二人きりで会えなかったから、寂しいとか、行かないでって毎回のように言っちゃってたの」
「いいじゃねーかそんくらい」
「でも彼氏にはそれが重かったみたい」
「俺は重いなんてぜってー思わないぜ」

今まで言いたくても我慢してたんだろ? そう名前の耳元に囁く。
銀時の奔放な生活に、湧き上がる心配や嫉妬をぐっと我慢してきた名前は、認めちゃってもいいのかな…、と心配そうに銀時を見上げる。
銀時はそんな名前の視線を余裕ある微笑で受け止めると、もう認めちまえよとぽんと名前の頭に手を乗せる。
苦しげな顔をして、とうとう名前が観念したように、こくりと小さく頷いた。耳まで赤くして。
「ったく、バカだねー」と、その耳をくすりと笑いつつ銀時が自らの唇で柔らかく噛めば「ひゃっ」と名前が小さく喘ぐ。

「だ、だけど、銀さんに疲れたなんて思われたら嫌だから中々言えなくて……」
「お前、そんなにネチネチ言ったりグチグチ文句垂れたりするようなタイプじゃねーし、前の彼氏の器が小さかっただけなんじゃねーの」
「それ、友達にも言われたなあ」
「とにかく、銀さんは名前が一人で我慢するより言いたいこと言ってくれる方が嬉しいんだからな。これからはちゃんと言うんだぜ」
「……うん!」

どこかスッキリとした顔で名前が嬉しそうに笑う。
よし、と銀時は満足そうに、自分の胸に名前の頭を押し付けるように抱きしめた。





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