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企画
夜空の花より (EDGE OF THIS WORLD番外編)
真夏の厳しい暑さは夕暮れ時になるとすうと吹きぬける涼しい風によって真昼間に比べれば少しだけじっとりとした空気が和らぐ気がする。

「わー、賑わってるね」
「ここらじゃ一番デカい花火大会だからな」

河原で行われるこの花火大会を見に、毎年江戸中から人が集まるのだそうだ。
露天が並ぶ馴染み深い光景。たくさんの人々で賑わう景色は懐かしいようでいて新鮮なような気もした。
元の世界に居た頃はこういうところに恋人と来ることなんてそれほど興味も無かったのに。
今じゃ隣で真っ赤な林檎飴を幸せそうに舐める銀さんとこうしてお祭りを楽しんでいる。
幸せだな、と思った。
銀さんが隣に居るだけで、私は私の居た世界では味わうことの無かった感情が湧き上がってくるのを感じる。
それはとても鮮やかで、それでいてあたたかいものだ。
大事な人が居るだけで世界はがらりと変わる。
私の場合は本当に違う世界からきてしまったのだけれど。
もうこの場所から動きたくない。銀さんの隣にずっと居たい。
お祭りは盛り上がっていた。みんな楽しげに、恋人や友達や仲間とにこにこ笑っている。
迷子になったら困るので、綺麗な水色の浴衣を着た銀さんの腕に絡めた自分の腕はそのままに、身体だけもっとぴったりと密着する。

「歩くの早かったか?」
「ううん大丈夫。迷子になっちゃわないようにしっかりくっついておこうと思っただけ」

私の言葉に銀さんは気だるげなその目を少しだけ大きく見開き、持っていた林檎飴をかしりと齧った。
そしてふっと笑みをこぼす。

「ならもっとくっついてもいいんだぜ? おら遠慮すんなって」
「じゃあ遠慮なくくっついちゃおっと」

銀さんの腕に頬をすり寄せた時、どおんと大きな音が響いた。続いてみんなの歓声も。
音のした方を見上げれば夜空に咲く打ち上げ花火。
「綺麗だね」と銀さんの顔を見上げれば、続いて上がった花火の光に銀さんの何とも言えない優しい表情が柔らかく照らし出された。
そんな横顔から目が離せなくて、次に上がった花火も見逃してしまう。

「名前?」

私がじっと見つめていることに気付いた銀さんが「ボケーッとしてどしたんだ?」と微笑んで言葉を促すようにゆっくり小首を傾げた。
その口にはわあびっくり、林檎の芯まで食べてしまったのだろうか。割り箸を口でブラブラさせて遊んでいる。
人がいっぱい居る中で危ないからその割り箸は没収!
と銀さんの口から割り箸を奪うと「見てろ」と銀さんが私の手から瞬時に割り箸を奪い返しぽいっとそれを投げた。
割り箸は綺麗な放物線を描きダンボールで作られた即席ゴミ箱へ。
すごい!と思わず拍手。まんざらでもなさそうに銀さんが笑う。

「お、名前。また上がったぞ。今度はナイアガラか?」

光の川が贅沢な輝きを放ちながら夜空で弾け流れていく光景に、思わず溜息が漏れた。

「銀さん銀さん、私、こんなに花火が綺麗だなって思ったの初めてだよ!」

花火から銀さんに視線を移すと、どきりと心臓が大きな音を立てた。
喧騒の中だというのに、静かな水面のようにそっと深い瞳に私を写しひっそりと微笑んでる銀さん。
銀さんは花火なんて見ていなかった。ずっと私を見ていたのかもしれない。

「花火見ないの?」

私の言葉はハッキリと銀さんの耳に届いたはずなのに、銀さんはわざとらしく「ん?」と腰を屈めて私の口元へ耳を近付けてくる。

「花火見ようよ」
「え? なに? 身長差あって聞こえなーい」
「は、な、び!」

どおんどおんと大きな音。ナイアガラの滝が終わり、今度は連続で打ち上げ花火が上がっていく。
銀さんの顔に赤や黄色や色とりどりの色が映る。
皆花火を見てた。見つめあってるのは私たちだけ。

「銀さんだいすき」

小さく囁いた言葉だったのに「俺も」なんて満面の笑みで銀さんがちゅうと軽く林檎飴の味のするキスをしてきた。
……やっぱり聞こえてたんじゃない!



もぐ子様リクエスト
「花火大会とか(ベタかな?)。喧騒の中、背の低いヒロインの囁きを、腰を屈めて「ん?」て耳だけ傾けて聞き返して欲しい!」
とのリクエスト、これをいただいた時はそのシーンを妄想してムッハーと興奮しました。
この素敵なリクエストがもったいないことになりませんように!と全力で欠かせていただきました…でも心配ですどきどき。
もぐ子様、とても素敵なリクエストをどうもありがとうございました!
これからもどうぞよろしくお願いいたします。
いがぐり

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