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企画
★待ち合わせ (笹塚衛士)
彼女が来るのを待つ間、座って煙草でも吸おうかと、笹塚が冷え切った木のベンチへ腰かけたところへ、中学生らしき男女二人が少し離れたベンチへと座った。
風向きからいって、ここで自分が煙草を吸うと煙が二人へ流れてしまうだろう。
笹塚は懐から取り出そうとしていたタバコを掴むことなく、諦めの溜息を吐く。
隣の二人の会話がぽんぽんと軽快に交わされていく中、ある時点で男子の方が口ごもった。
流れ聞こえた内容と二人の態度から察するに、両方好意は持っているが付き合うまでには至っていないのだろう。
このタイミングが告白の絶好の機会だと考えているに違いない。
…退散するか。
笹塚は腰を上げ、若い二人の恋が実る邪魔にならないよう、その場をそっと去った。

「あれっ、ベンチで待ってるって言ってなかった?」

そこへ絶妙のタイミングで、笹塚と待ち合わせしていた名前が笹塚の前に現れる。
マフラーにコートにブーツ、寒さが苦手な彼女は今日も完全防備だ。

「あー…まあ、ちょっと」

名前は言葉を濁す笹塚を不思議そうに見上げてから、まあいいや、と深く追求することなくすっと腕を絡めてきた。
笹塚は、自分達もさっきの二人みたいに、思いが通じ合う一歩手前という甘酸っぱい時期を過ごしたことが……そういえばなかったな、と一人ふっと頬を緩める。

「どうしたの衛士、ちょっと変」
「俺達の始まりのことを思い出してた」
「やだ、ちょっと、そんなこと思い出さなくていいから!」
「飲みに行ったらベロンベロンに酔っ払った名前に絡まれたんだったよな…」

遠い目でその時のことを語る笹塚に、顔を真っ赤にした名前がぽかぽかと笹塚の腕を叩いて抗議する。

「知らない。覚えてない。私達は運命の出会いをしたの。うん、そうしておこう」
「運命ね…」
「だってそんな出会いだって私達は上手くいってるし、婚約までしちゃったし、式は2ヵ月後だし」
「惚れちまったもんは仕方ねーよな」
「そうそう、たまたま出会ったあの偶然に感謝しなきゃね。ついでに衛士に絡んだ私にも感謝しなさい」
「…はいはい」

屈託無く笑う名前には敵わない。
暗闇を復讐の為だけに生きてきた笹塚に、突き刺すような眩しい光を当てた名前。
彼女は知らない。笹塚の秘めていた計画を。
だがもう知らなくていいのだ。笹塚は復讐以上に守らなければならないものを見つけた。

「ところで衛士、今年のクリスマスプレゼントのことだけど」
「指輪買ってやったろ」
「それはエンゲージリングでしょ!それとクリスマスプレゼントを一緒にするだなんて…私を愛してないのね!」
「…何が欲しいんだ」
「手袋!」
「確か車の中に入ってたな…それでよけりゃやるよ」
「ちょっとそれ現場検証用のゴム手袋じゃないの!?」
「そうそう。あれ結構いいぞ。細かいモン掴めるし案外丈夫だ」
「衛士のバカ!」

ご立腹の婚約者に「愛してるから怒んないで」と囁いたところ、膨れっ面がみるみる緩んでいき「私も!」とぎゅーっと組んでいる腕が軋むほど力を入れられた。
その痛みを顔に出すことなく耐えながら、やれやれと幸せな溜息を零す笹塚だった。




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あきゅろす。
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