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企画
★買出し (藤麓介)
ああ…まるで藤くんとデートしてるみたい…美作くんありがとう…!

私の少し先をスタスタ歩く藤くんの横顔をヨダレを垂らさんばかりに見つめながら、私は今の幸せを美作くんに感謝する。

「クソ、ここには売ってねーみたいだな」
「こんなに大きな商店街なのにね」

私達は、常伏町から電車に乗って数駅先の商店街までサンタの衣装を探しに来ていた。
明日、保健室にみんなで集まってクリスマスパーティーをひらく予定なのだが、
美作くんにサンタの衣装を調達してくるか飾りつけを手伝うかどっちがいいか聞かれ、買出しに立候補したら意外や意外、藤くんも一緒に行くと言ってくれたのだ。
飾りつけとか面倒くせーし、それにお前放って置くととんでもねーもん買ってきそうだしな。
なんて失礼なことを言っていた気がするけど、聞こえないフリをした。

常伏町とは規模が違う、豪華なイルミネーションの中を歩いていると、私達も恋人同士になったみたい。
藤くんずっと仏頂面だけど。
いいなあ、手を繋いで楽しそうに歩いていく、私達よりちょっとだけ大人の高校生のカップル。
彼氏さん物凄く幸せそうな顔してる。
彼女さんが、サンタの衣装着てね、なんて話してるけど、この商店街には売ってないみたいですよー。
教えてあげたかったけど、いきなり見知らぬ中学生にそんなこと言われても困よね。
常伏町じゃサンタ衣装なんて売ってないんじゃねーか?なんて藤くんに言われてはるばる電車に乗ってここへきたけれど、なかなか売ってないものなんだね。
私は藤くんと一緒に歩けるというだけで嬉しいので、売って無くてもそこまでガッカリしなかった。

「おい、何ボーっとしてんだ苗字」
「ごめん、いやそれにしても綺麗だねー!見とれちゃう!」
「そうか?ただの電球の集まりにしか見えねーけど」
「そんな見え方をする藤くんが気の毒になってきた」

かわいそうに、とわざと哀れむような表情で藤くんを見ると、コツッとゲンコツが降って来る。
大きなツリーの見えるベンチに何となく二人で腰を下ろした。
みんな待ち合わせはツリーの前でしているのか、数台並んだベンチには先客のちょっとくたびれたような男の人一人しか居ない。
冬は夜が訪れるのが早い。まだ6時なのにもう空は真っ暗だ。
もうすぐ帰らなくちゃいけないな。

「さみーな、おい缶コーヒーでも飲むか」
「わーいのむのむ!でも紅茶にして!」
「…当然のように俺に奢ってもらえると思ってねーかお前」
「え、違うの?」
「まあいいけど」

目的のサンタの衣装が無かったのだからさっさと帰ってもいいのに、私達はお互いそれを言い出さない。
ちょっと待ってろ、と藤くんは私をベンチへ残しちょっと先の自販機へ歩いていった。

「ん」
「ありがとう!いっただっきまーす」

藤くんの買ってくれたミルクティーは、缶独特の香りと味でなかなか美味しい。
あったかいね〜と紅茶の美味しさと藤くんと一緒に過ごせることで頬が緩みまくりの私。
藤くんはくぴりと缶コーヒーを飲んで夜空を見上げていた。

「サンタ衣装無かったって美作くんに連絡しとかなきゃね」
「…パーティーは明日の夕方からだろ?ならその前も常伏町の店、当たってみねーか?」
「うん、それいいね!でもどうしたの藤くん、藤くんがそんな行動的なこと自分から言い出すなんて」

素直に疑問に思ったことを口に出すと、藤くんが黙って動きを止めた。
あれ、なんか私言っちゃいけないことでも言った?いや言ってないよね。
数秒ほど時間が流れたところで、隣のベンチに座っていた男の人がのそりと立ち上がった。
藤くんはその男の人の哀愁を帯びた背中をじっと見送る。
男の人が去った今、ベンチに座っているのは私達しか居なくなった。

「…あのなあ、俺はお前のことが好きなんだよ」

楽しさに満ちたざわめきの中、小さく呟かれた藤くんの声は、妙にクリアに私の耳へと流れ込んできた。
コーヒーの最後の一口を飲み終えた藤くんは、コトリとベンチの上に缶を置く。

「あの、その、ぜんぜん知らなかった!わかんなかった!」
「そりゃ苗字は最高に鈍感だしな」
「失礼なっ!そんなことないもん」
「だったら何で俺がわざわざ買出しなんて面倒なこと苗字と一緒にやるって言ったと思ってんだよ」
「それは、飾り付けの方が買出しより面倒だったからって言ってなかったっけ」
「バカ。お前と居られるからだろうが」
「なるほど!」
「なるほどじゃねーよ、気ィ抜けんな…ったく。告白してんだぞ、もうちっと照れるとかなんかねーのかよ」
「両思いってやつだったんだね、すごく嬉しいよ、もちろん。なんか驚きすぎて照れる通り越して落ち着いちゃってさ、ハハ」
「…両思いっつた?」
「言った。私も藤くん好きだもん。あ、知らなかった?ほーら藤くんだって鈍感じゃん!」

勝ち誇ったようにそう言ったら、さっきより痛いゲンコツが降って来た。

「なんだこの展開。雰囲気っつーもんを考えろ」
「イルミネーションを電球の集まりなんて言った藤くんには言われたくない」
「あークソ、目ェ閉じろバカ」
「ちょ、バカって…っ、」

突然奪われた唇に、目をカッと見開いたまま硬直する。
唇を離した藤くんはそんな私の顔を見て「うわ、ヒデー顔」なんて言って心の底から楽しそうに笑った。





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