企画 ハロウィンと猫耳とキスと(沖田) 私は刀を握ることはありません。だけど、真選組の一員です。 「おせーぞ雑用」 「すみません沖田隊長……!」 指定時刻の十分前に到着できるようかなり早めに出たというのに、 すでにそこには沖田隊長が、面倒オーラを隠すことなく腕を組み柱にもたれて待っていた。 真選組のお金の管理などを任されている私は、定期的に銀行へ行き真選組で使うものの支払いの為にあちこち振込みをしたりするのだが、 たまに現金を持ち歩く用事もあり、小額なら一人で行くがそれなりの額になると危ないので、隊士さんが同行してくれる。 山崎さんはいつも優しくて、会話も穏やかで帰り道にあんぱんをくれる。 局長はお妙さんの話しかしない時もあるけど、こちらに気を使ってくれるし楽しい。 副長は煙たい。煙草の煙が。 そして沖田隊長はというと、 「視線がウゼーんで顔あげるのやめてくれやせんかね」 ………私にとても冷たいです。 「すみません」と勝手に赤くなってしまう頬を隠すように顔を伏せて謝るけれど、 隊長はそれ以上何も言ってくれず、私が持ってきた現金の入ったバッグを黙って持っていった。 沖田隊長の横を歩くのは緊張してしまう。 足が遅いと迷惑をかけてしまうから、隊長の歩調に合わせて懸命に歩くけど、どうしても息が上がってしまって自分が情けなくなる。 隊長はそんな私をちらっと横目で面倒そうに見て小さく溜息を落とす。 そして、少し歩くペースを落としてくれる。いたたまれない。 「ごめんなさい」 「何がでィ」 「歩くペース、おそくて。あのっ、大丈夫なので、隊長のペースで歩いてくださいね」 「………」 はあ、と隊長に大きな溜息を吐かれてしまった。 私はそれを聞いてびくっとなってしまう。 また呆れられてしまったんだ。もうこれ以上嫌われたくないのに。 何かを考えるように黙っていた沖田隊長の綺麗な横顔が「そうか、」と、いきなり私の方を向く。 あっと、目があった瞬間に私は俯いて地面を見た。 さっき視線がウザいって言われてたのに不躾にじろじろ見てしまって、きっと不快だったに違いない。 「あんたは」 「は、はい!」 「いつも俺に緊張してんな」 その言葉、そしてトーンの穏やかさに驚いて思わず顔を上げると、そこにはいつもの冷たい表情ではなくほんのりと笑みを浮かべる沖田隊長がいた。 こんな表情をはじめてみた私は心臓がドキドキしすぎて、とてもじゃないけど返事なんてできずぽかんと口をあけたまま固まってしまう。 「俺はそれにいつもイライラしてたみてーでィ」 「すみませ……」 「ようやく原因がわかってスッキリしやした」 「それは、よかったです」 「スッキリついでに言っちまいますが」 「はい、なんでしょう!」 つい癖で背筋を伸ばしてしまう。 片手に大金の入ったバッグを持つ沖田隊長は、そんな私ににこっと笑いかける。 「今日の護衛が俺でよかったですねィ」 そう言うと、目にも留まらぬ速さで私の身体をその胸へ抱き寄せた。 頬に沖田隊長のかたい隊服の感触と、背中に力強い男の人の腕。 同時に左腕に微かに痛みが走ってようやく、私達が何人かの武器を持った男達に囲まれていたことを知る。 「あんたマジでとろくせーな。俺じゃなかったらその左腕、今頃地面に落ちてましたぜ」 「ひえ、ごめんなさいごめんなさい……!」 見上げると、彫刻みたいな喉仏。 わたし、沖田隊長に抱きしめられてるんだ。 こんなに近づけるなんて、もう一生無いんだろうな。この幸せな一瞬を絶対に忘れないようにしよう……。 「謝んな。それ以上怪我はさせねぇから、このカバン持ってじっとしてろィ」 きっと沖田隊長はずっと前から男達の気配に気付いていたんだろう。 男達の狙いはこの現金に違いない。 沖田隊長から現金の入ったカバンを受け取ると、私は後ろに下がり邪魔にならないように壁に背をつけた。 こんな風に襲われるなんて想像もしてなかった。だけどこわくない。 だって沖田隊長がいる。隊長は強い。 ずらっと刀を手に持った男達に囲まれても、緊張するどころか少し楽しそうだ。 腕のかすり傷が、決して深くないはずなのにじんわりと熱を持つ。 「こいつら片付けたら、俺にも他の奴らにしてるみてーに可愛く笑ってくだせぇ」 「!」 真っ直ぐ前を向いたまま、私をからかうようにそんなことを言い、そして刀を構えて地面を蹴った。 「おせーぞ名前」 「お待たせしました……!」 「って、何でィその格好」 今日の私の格好は、女性用の隊服に魔女のマントを羽織り、猫耳のカチューシャを付け、 普段はズボンなのに今日はスカートでちょっとセクシーなハロウィンモチーフのストッキングを着用している。 そんな私を険しい表情で見る沖田隊長に、恥ずかしさの余り顔が真っ赤になる。 「局長が真選組のイメージアップになるからって……恥ずかしいんですけど、でも私にできることなら真選組の為に頑張ろうと!」 「頑張る方向が違いやせんか」 「うっ」 強盗に襲われて以来、沖田隊長はあの冷たさがなくなってすごく話しやすくなった。 「でも、キャンディもチョコも用意したんです。子供達が喜んでくれて真選組もより一層親しまれると思いませんか」 「さあ、どうだかねィ」 「沖田隊長もおひとついかがですか?」 こうしておしゃべりできるようになって、私は沖田隊長に自然と笑顔で接することができるようになった。 前までは嫌われてると思っていたので、緊張で表情はぎこちなく態度がおどおどしていたのだ。 沖田隊長が私に冷たかったのは、全部私のそういう態度のせいだったらしい。 そう隊長が説明してくれた。 平謝りしたら『そうそう、そうやって一生俺に頭下げてろィ』と言われました。笑顔で。一生って冗談だよね? 「俺はチョコより違うモンいただきてーんですが」 「りんごキャンディー、キャラメル、ガムもありますよ」 「残念ながら菓子じゃねぇんでさァ」 「?」 小首を傾げてぽかんとする私の唇に、沖田隊長の唇がいきなりぶちゅっと押し当てられて、 私の背筋が、肌が、全部ぶわっと逆立ったように、下から上に向かって震えが走る。 すごく柔らかくて、やけに甘くて、隊長の瞳が綺麗で、一瞬で離れていった。 「………え………いまの、な、なに………」 「ちったァ自覚しといた方がいいですぜ、名前が俺にどういう目でみられてるかって」 「〜〜〜〜〜!!!????」 顔をこれ以上ないくらい赤くして動揺しまくる私に、隊長は「猫耳つけたタコじゃねぇか」 なんてとびっきり明るい笑顔で口をパクパクしてる私の頬をつんつんとつつきまくるのだった。 琴葉さまリクエスト □◎沖田さんと同年代の真選組隊士夢主さん。ある時任務で夢主さんが負傷してしまい、動揺する沖田さん夢。 ◎本人に自覚はないものの、皆に優しく可愛くてとてもモテる同年代夢主さん。そんな夢主さんにやきもきする沖田さん夢。 ◎ハロウィンで仮装した同年代夢主さん。あまりに可愛すぎて、色々と自制のきかない沖田さん夢。 こちらの内容で書かせていただきました!! 一年お待たせしてしまって大変すみませんでした…! とってもとっても楽しく書かせていただきました。 素敵なリクエスト、どうもありがとうございました♪ 2017/10/30 いがぐり [*前へ] [戻る] |