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企画
最高に甘い(藤)
「藤くん、まーた授業サボって保健室で寝てたの?」

藤くんと一緒に帰ろうと隣のA組に顔を出せば、主不在の机の横に呆れ顔のアシタバくんと美作くんが居た。

「寝てたっていうか、帰る時間になってもまだ教室に戻ってきてないんだけどね…」
「寝すぎて脳味噌溶けてんじゃねーのか、ったくよー」
「ほんと、毎日毎日よく寝るよねー。私がカバン保健室に届けるね。今日は私部活無いから一緒に帰ろうって約束してたし」

机の中の教科書を藤くんのカバンに適当に入れる。
まったくもう、世話の焼ける彼氏だなー。

「相変わらず仲良くやってるみたいだな、苗字。藤の性格に嫌気が差してすぐ別れるかと思ってたぜ」
「もう半年くらいになるもんね…」

しみじみとアシアバくんが笑う。
保健委員の私が、しゅっちゅう保健室に集まってお茶を飲んでいる彼らと仲良くなるのにそう時間はかからなかった。
中でも藤くんとは、放課後に石鹸水の補充やなにかの当番で保健室へ行くと、かなりの確率でそこに居たから自然と会話の機会は多くなった。

ハデス先生が赴任してきてからしばらくの間、保健委員の仕事をサボる子が続出したことがあった。
ハデス先生はそれを怒りもせず、しゅんとしながら自分でやっていた。
そんな姿を見ていられなくて、部活の無いときは出来る限りお手伝いしていたのだけど、なんとあの藤くんもお手伝いしてくれるようになったではないか。
これにはキュンときた。そしていつの間にか藤くんを好きになっていた。
親切なんだね、と言うと、誰にでもこうってワケじゃねーからな、と返され胸が締め付けられるような喜びを感じた。保健委員になってよかったと心底思った。
そうでなければ、こんなに仲良くなることは無かっただろう。
付き合うことになったのは、二人で校内を一緒に回りながら手洗いPRのポスターを貼っている時だった。
上の方に画鋲を刺そうと伸ばした手を、上から藤くんの手のひらが包んだのだ。
笑いあうことはあっても、触れ合ったりなんてしたことがなくて、ああ藤くんの手ってこんなあったかいんだと思った。
何も言えなくて横に立つ藤くんを見上げると、ちょっと恥ずかしそうに笑って、ちっこい手、なんて呟いた後、静かに好きだと告げられた。

そんなわけで、あれから半年が経って、皆ハデス先生を恐れつつも保健委員の仕事をやってくれるようになり、私も自分の当番以外で仕事をすることはなくなった。
今では私の当番の時、藤くんに手伝ってよーと言うと、面倒くさいと保健室のベッドの上で寝転んだまま言われるようになってしまった。
終わるまで寝て待ってくれるだけマシなのか…。

「不満とか、なんもねーの?」
「うん全然ないよ。あ、でも藤くんってあんまり甘い言葉とか言ってくれないんだよねー、それだけがちょっと残念かも」
「藤にそんな期待するだけ無駄だぜ!この俺なら毎日苗字に囁いてやるぜ?愛の言葉を!どうだ苗字!?」
「いや美作くんの愛はいらないから」
「即答すんな!」

みんなで笑いながらA組を出る。
下駄箱へ向かうアシタバくん美作くんに手を振って、保健室へと足を進めた。

「こんにちはー」

ガラリと保健室のドアを開ければ、中はしんと静まり返っていた。
あれ?と廊下側のドアをひょこりと見てみれば、いつもの几帳面な文字で部活動の見回りに行くとのメッセージが書かれていた。下には可愛いイラスト付きで。
きっとアシタバくんたちと話しているうちにハデス先生とすれ違ってしまったんだな。
保健室を見渡すと、窓際のベッドのカーテンが閉まっている。十中八九藤くんだろう。
スタスタと歩き、シャッと勢い良くカーテンを開ける。
そこにはやはり眠りの森の王子様か、みたいな端正な寝顔の藤くんが居た。

「おきてー、放課後だよー」

つんつんと人差し指でほっぺたを突いても、んー、なんて眉を寄せてもぞりと動くだけで起きない。
耳に息を吹きかけると薄目を開けた。

「おはよ。まだ眠い?」
「…あー、まあな……」

そう言ってふああと欠伸する藤くんは本当に眠そうで、起こして悪かったかなとちょっと思った。
ベッドに腰かけ髪の毛を撫ぜると嬉しそうに目を細める。

「私先帰ろっか?藤くんはまだ眠っててもいいよ」
「や、もう起きたし…」
「大丈夫?私別に怒ってないんだよ?本当に眠いんだったらまだ眠ってていいのに」
「寝ている時間より、名前といる時間の方が大切」

そう言って身体を起こし、藤くんは私の唇にゆっくりと自らの唇を押し当ててきた。
角度を変えて何度も重なる唇に藤くんへの愛しさがこみあげる。
ふにふにの柔らかな藤くんの唇の、下唇のところだけ唇でむにっとはさみながら「甘いことも言えたんだね」とついぽろりと漏らしてしまった。

「…何の話だ?」

顔を離され訝しげに眉を寄せる藤くんに、ぶんぶんと首を振る。

「なんでもない、嬉しいなあって!」

藤くんはワケわからん、って顔をしてたから、ぎゅっと抱きついて誤魔化してみた。
そしたらアッサリ誤魔化されてくれた。大好き!



にしむー様よりいただきましたリクエスト
「寝ている時間より、お前(ヒロイン名)といる時間の方が大切」でした!
このセリフ、藤くんにとってある意味最高の愛の言葉ですよね!!!!
甘く優しいお話を目指してみました。
楽しんでいただけたら嬉しいです。
素敵なリクエストをどうもありがとうございました♪
またリクエスト企画がありましたらぜひぜひご参加お願いいたします!
いがぐり

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