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企画
てのひらから(坂田)

「わらしはねぇ、ぎんしゃんみたいなすてきなひととおつきあいなんてとてもとても!」
「……は?」

珍しく杯をそれほど重ねていないというのに泥酔してしまった名前に、
これでうっかりOKしてくれたら儲けもの、とばかりに何度目かの「俺達付き合っちまおうぜ」という言葉を名前に投げかけた銀時は、
いつものはぐらかすような言葉と全然違う返事が返ってきたことに驚きの余り心臓が止まりかけた。

「えーと名前チャン、いま俺のこと素敵って言った?」
「いいましたよー、ぎんさんはすてきなんれす! でもつよくってー、すてきでした」
「おい最後過去形になってんぞ」
「でも、わらしなんかにー、つきあおうよっていうぎんさんはー、ちょっとすてきじゃないれすねえ」
「なんでよ」

銀時の言葉を聞いているのか聞いていないのか、名前は空になったグラスを傾け
「もうお酒なくなっちゃった……」なんて甘えるように銀時を上目遣いで見つめてくる。
そんな名前に銀時はカッと頬を染めながら「おやっさーん! コイツに同じのもう一杯ね!」と声を若干裏返しつつ勢い良く注文してやれば、
「やさしい!」とにこにこ可愛い笑顔を見せてくれるものだからたまらない。

「俺、名前が好きだよ」
「もう、それ、まいかい言うんだからー」
「だって言いてぇんだもん」
「わたしは、どっこにでもいるようなおんななのに。どこがいいんだか」
「んなこたねぇよ」

全部いい。唇だけでそう言う銀時の表情は大真面目だった。
それに反応するように、名前もくったりしていた背中をぴんと伸ばし、銀時と真っ直ぐ視線をあわせる。

「ぎんさんと会うの、たのしいけど、くるしい」
「なんで?」

お待たせ、と店主が新しい酒のグラスを名前の前に置いていく。
それに礼を言い、しばらくぼうっとした瞳でグラスを見つめながら名前はようやく言葉を続けた。

「だって、わたしをすきだーとか言ってくれるの、嬉しいけど、嬉しいけど、お酒の席だけのじょーだんかもしれないから」
「俺ァ酔っててもてめーの惚れてる女しか口説かねえし、冗談で言っていいことと悪いことの区別くらいついてるぜ」
「ほんと?」

新しい酒のグラスに口も付けず、両手で挟み込んだまま名前がパッと顔を上げた。
瞳が潤み、頬は期待に満ちているのか林檎のように赤く、唇はゆるりと綻んでいる。

「信じろよ、俺のこと」

そっと名前の手のひらを握り、グラスについた水滴でしっとり濡れた手のひらに唇を落とす。
想像以上にひんやりとした名前の手のひらは、それでもとても柔らかかった。




「ん………?」
「おはよーさん」

ぬくぬくと信じられないほど安らぐぬくもりのなか目覚めた名前は、
目を開けた途端「ひぐ!」と何ともいえない小さな悲鳴を発した。
自ら頬をすり寄せていたぬくもりが、銀時の厚い胸板だったから、というだけでなく、
銀時が名前のことを今までに無く甘い眼差しで見つめていたのだ。
完全に頭の中がパニック状態になる。

昨晩の記憶が全然思い出せず、名前は何故こんなことになっているのか全くわからなかったが、
銀時が嬉しそうに「名前がやっと俺を彼氏にしてくれた」だとか
「昨日の名前ちゃん可愛かったぜ〜、あ、いや一線はさすがに越えてねぇよ、まだ」だとか、
聞いてもいないのにべらべら有頂天で喋っているものだから、
どうやら泥酔した自分が銀時と付き合うといったようだが身体の関係はまだ結んでない、ということまでは把握できた。

「あの」
「どした?」
「私、実は昨日の記憶全然ないんだけど……でも、その、えっと、つまり、」

しどろもどろになる名前の言葉を、銀時は名前の髪を撫でながら、落ち着いた笑顔で待ってくれている。

「私達、お付き合い、することになったんだよね?」
「そーそー」
「銀さん後悔してない?」
「するわけねーだろ。一体どんだけ俺が名前にアプローチしてきたと思ってんだ」
「だって冗談かもしれないし」
「それ昨日も言ってた」
「覚えてないもん」
「あ、わーった。覚えてねーからもう一回銀さんに愛の告白しろってんだな」
「いや、そこまでは言ってないけど、でもしてくれるならしてほしい」
「名前が好きだって、オメーが忘れるたび何度でも言ってやらァ」

ゆるゆるにゆるんでいた銀時は、突然顔を引き締めて名前に「好きだ」と短く告げた。
それを聞いた名前の心臓がどくりと大きく音を立てる。
名前の胸に、すとんと落ちるものがあった。
そう。ずっとこうやって、お酒でふわふわしていない銀時が言う、この言葉を聞きたかったのだ。
目頭が熱くなる。唇を思わず噛んだ。そうしていないとうれし涙がこぼれそうになるからだ。

名前はすんと鼻を小さく鳴らすと、涙をかろうじて目尻に留めたまま瞳を緩ませ、手のひらを銀時の頬へと滑らせた。
寝起きの銀時の頬を、すみずみまで確認するように撫でる。
銀時は瞼を閉じそれを受け入れた。穏やかな表情。口元は優しい弧を描いている。

なんだか、きのうも同じことをしたような、

そう聞こうとしたが、その前に銀時の唇に言葉を塞がれてしまい、声を出すことはしばらくできなかった。





みぃ様リクエスト、

□銀さんとヒロインはまだ恋人ではなくて友達(呑み友達のような)
 銀さんはヒロインの事が大好きで、会う度いつもしつこくアプローチをしてくる(紳士的なのではなくて、軽い感じで)
 ヒロインは軽く流してるけど、実は嬉しくてたまらない。
 でもある日だいぶ酔っ払ってしまって銀さんに対する本音をこぼしてしまい、
 そのまま付き合いお持ち帰りされる(エロなし)。
 次の日起きて記憶がなくて驚くヒロインをよそに嬉しくてデレデレの銀さん

で書かせていただきました!
こういうパターン、書いてて自分がドキドキしてとっても楽しかったです♪
素敵なリクエスト、どうもありがとうございました!

2017/09/14 いがぐり

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