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企画
頑張りや・3(沖田)

「頑張りや・2」の続きです。


名前が住み込みで働かせてもらっていたパン屋が店を畳んでから、名前は日雇いや、
自給の低い普通なら敬遠するであろうアルバイトをいくつも掛け持ちして生活していた。

「もうこんな生活やめなせェ」
「でも私を雇ってくれるとこあんまりないから」

次が見つかるかわからなくてこわい、と名前は言う。
休みも無く睡眠時間も削って働き続けている名前の顔は日に日に疲れが増していき、沖田はもう見ていられなくなった。
会う度いい加減自分を頼れと強引に沖田が迫り、名前はそれに困った様に首を振る。
このところずっとその繰り返しで、かなり限界にまで来ていた。

「いくら金稼いだところで身体壊したら意味ねェっつってんでィ」
「だって生活していく為なんだからしょうがないじゃない」
「だから俺が足りねぇ分の生活費の面倒くらいみてやるって何度も」
「それが嫌なの」

仕事が忙しくなかなか名前に会えない苛立ちが、沖田の持つ冷静さをじわじわと削いでいく。
前は優しい言葉をかけてやれたのに、今は口から責める言葉と大きな溜息しか出てこない。

「この調子じゃアンタがもしこの世界から消えてても、俺は当分気付きそうにないですねィ」

沖田が今、一番想像したくないことを自ら言い放ち、その心の痛みにぎりっと唇を噛む。
名前は突然別の世界からきたといっている。
なら、いつまたもとの世界に戻るか分からない。
今この瞬間に、目の前から消える可能性だってある。
けれど、十年経っても一緒に居られるかもしれない。どんな未来も保証は無いのだ。

「やだ沖田さん、なに言って……」
「何言っても無駄なようですから俺ァもう帰りやす。せいぜいぶっ倒れねぇようにしてくだせえよ」

違う。こんな風に言いたいんじゃない。
心配だから、もう少し身体を休めて欲しい。
手助けさせてくれないか。一緒にいたい。
そう言いたいのに、名前の頑なな態度に自分が拒絶されているように思えて、
それに苛立ち、そして傷ついて素直な言葉が出せなかった。
ぐっと拳を握り名前に背を向け、これ以上みっともない姿を見せる前に帰ろうとした沖田だったが、
すがるような声がそんな沖田を引き止めてくる。

「行かないで」

こういう時の名前は大人だと思う。
痩せて骨がうっすら浮かぶ名前の手が、沖田の袴をつかんだ。
こんな細くなっちまって、と沖田は眉根を寄せ小さく舌打ちし、手首をぐっと掴み自分の方へ引き寄せる。

「俺の心配は名前さんにとって重てェだけでしょうが……」
「重くない、嬉しい。でも沖田さんの負担にだけはなりたくないの」

名前の優しい声が、背中にまわる腕が沖田の心を何より落ち着かせた。
目を瞑り抱きしめていると、徐々に冷静さも戻ってくる。

「給料はそこらの男よりもらってますぜ」
「いいなあー……って、そういうことじゃなくて!」
「なあわからねェか? 俺は名前さんを支えてもビクともしねぇ力を持ってる。なのにアンタはそれを拒絶する。俺は支えてやりてェのに」

それがどれだけ歯がゆいか、そう搾り出すような声で言えば、
名前はもぞりと頭を胸に埋めたまま、ごめんなさい、と謝ってきた。
少し、頑なな態度が和らいできたように思う。
それが嬉しくて、沖田の心に余裕がうまれた。そして同時にするっと名案も浮かぶ。
最初からこうしとけばよかったと、笑い出しそうになる顔をぎゅっと引き締めた。

「名前さん。これから俺の言うことに何も考えず頷いてくれやせんか」
「……内容によるかな」
「なら俺が力ずくで頷かせるんで口だけ閉じてろィ」
「!?」

沖田の言葉に驚いたように胸の中から顔を上げようとする名前の頭を、
片腕でしっかり胸に押し付け固定し沖田は笑う。
頭の中の冷静さが、名前のおかげで全て戻ってきていた。
勢いではなく、衝動的でもない。
前に冗談めかして言っていたが、まだ本気で申し込んでいなかった言葉を胸に、大きく息を吸う。

「俺と夫婦になりやしょう」






そら様からいただきましたリクエスト、「頑張りや・2」の続編でございます!
ヒロインの名前さん、かなり疲れていて最初の溌剌とした感じがなくなってしまってますが、
きっとこの先、沖田さんに支えられてその元気さを取り戻していくのでしょう!
嬉しいリクエスト、どうもありがとうございました〜♪

2017/08/20 いがぐり

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