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企画
タイミング(坂田)

「銀時、あのさ」
「断る」
「ちょっと、人の話聞く前に断るってどういうこと!?」
「だってオメーの言いそうなことっつったらアレだろ。同棲したいだの結婚したいだの、もう聞き飽きたっつーの」
「そろそろ観念してもいい頃だと思うの私」
「そーいうことって観念してするこっちゃねーだろーが」

じゃあいつになったらそういう気になってくれるの、という言葉は、口から出る寸前で何とか飲み込んだ。
私は銀時が大好きで、どうしようもなく大好きで、暇があったら万事屋に遊びに来たり、
さりげなーく銀時の傍に、いても自然に受け入れてもらえそうな位置にまで少しずつ頑張って近づいていって、
そうしてやっとその努力が実を結んだのが一年前!
なんとなく、銀時の態度に私への微かな、他の人へ向けるものと違うことに手ごたえを感じ、
銀時と付き合いたいと言ったら曖昧に誤魔化された。
それにムカッとして、毎日銀時へ告白し続けていたら「あーもう黙れ!」と
ちょっと切れ気味の銀時に、その唇で口を塞がれた。
これをきっかけに私達は付き合いだしたのだが、浮かれてるのは私だけで、
銀時は今までと全く変わらない態度。
デートに誘われたことはもちろん、甘い言葉なんてひとつもくれたためしは無く、
もっぱら私があれしたいこれしたい、というのに渋々付き合ってくれる、そんな関係だった。

といっても、大事にされてないわけじゃないし、二人きりの時はそっと目元を緩めて「メシ作って」なんておねだりされることだってある。
だから私はよくばりになってしまったのだ。もっと、確実なものが欲しいと。
なのに銀時にはいつも断られ続けてしまう。

「今日はきっと日が悪かったんだね。次は星座占いで一位になった時に言うことにするわ」
「いや銀さんの気持ちは占いごときで左右されるもんじゃねーから」
「結野アナの占いは本気で信じるくせに」
「たりめーだ」

銀時とアホな会話をしてるのは楽しいけど、そろそろ買い物行こうかな。
携帯で時間を確認してバッグへ放り投げて立ち上がる。
ソファにどっかり横になりジャンプを読む銀時に近寄り
「私のことも信じてね」と冗談めかして言って、しっかりとした髪質の銀時の髪に指を通した。

「……あれ、もしかして帰んの?」
「今日は気合入れて部屋の模様替えでもしようかなって」

銀時は「ふーん」とどうでもよさげな返事をしてジャンプを胸の上に伏せる。
何か言いたげに見つめてきたので促すように鼻先を触れ合わせた。
が、銀時は何を言うでもなく私の後頭部を引き寄せ、少し深いキスをしてくる。

「そんじゃまあ、またな」
「うん」

私が何度銀時に同棲や結婚を申し込んで断られ続けても気まずい雰囲気にならないのは、
銀時がこういう風に、さらっと甘いキスをくれて私の心を簡単にぽんぽん弾ませてくれるからかもしれない。



とんとんとんとリズムよく外階段を降りていくと、ちょうと掃き掃除をしてるたまちゃんに会った。
こんにちはと挨拶をすると、笑顔で挨拶を返してくれる。
とても嬉しそうですが銀時様と性行為でもなさっていたのですかととんでもないことを聞かれたので、
今日はしてないよと笑う。

「同棲しようって言ったら断られちゃったんだけど、でも嬉しいことしてくれたからいいんだ」
「そうなんですか。銀時様は以前同棲で痛い目にあってるから慎重になっているのかもしれませんね」
「え?」

たまちゃんの言葉に、私の楽しい嬉しい幸せな気分は一気にどこかへ吹き飛んだ。

「待ってなに、銀時前に誰かと同棲してたの」
「ご存じなかったですか」

ええ、全く。
ぽかんとする私に、この優秀すぎるからくり家政婦は、その優秀な記憶媒体に記録された一部始終を余すことなく表情をイチミリも変えもせず私に教えてくれた。

まだ私と出会う前、酒癖の悪い銀時を懲らしめるため、酒をやめさせるために、
お登勢さん、さっちゃんさん、お妙ちゃん、月詠さん、九ちゃんという、
私とも今や顔なじみの女性陣それぞれが、銀時と一夜を共にしたといって彼を窮地に追い込んだのだという。
その時の銀時は何を考えたのか、結婚を前提にした付き合いを全員に申し込み、同棲をしたそうだ。

「それは、すごいね」

その時の表情、みんなの反応、銀時がどんなことを言ったのか。
まるでこの目で見たようにはっきりと浮かんできてしまった。

あーあ、私がいくら言っても取り合ってくれなかったのに、
もう銀時はすでに5人の女の人に結婚前提の付き合いを申し込んでて、同棲までしてたんだな。
いくらドッキリだったとはいえ、銀時が自分から起こした行動だ。
あの5人と私との違いは何だろう。
私とのはじまりも一夜の過ちだったなら、今頃私は銀時の婚約者だったんだろうか。
もやもやしてしまう。
一夜どころか何十夜も一緒に過ごしているのに、銀時は私と恋人以上へ進みたくないらしい。
それって、なかなか悲しい。気付きたくなかったなあ。



もやもや、もやもや。なんだか空ももやもやしている。
部屋の模様替えにあわせて部屋の照明をかわいいものにしようかな、なんて考えていたけど。
こんな気持ちじゃ、買い物に行く気にもなれない。
自分のアパートへとぼとぼ歩いていく。なんだか段々周囲が騒がしくなってきた。
もくもくと空へ登る灰色の煙。消防自動車が私を追い越していく。
帰りたいのに、私のアパートの前には人だかりができていた。
それをかきわけてアパートの前に出ると、その光景に呆然とする。

最悪な時に最悪なことは重なるもので、
アパートが
なんと
全焼
して
まし
た。



警察に事情説明をして、色んな手続きや離れて暮らす両親や友人知人や仕事先に連絡を入れたりしていると、
あまりにも突然の出来事に麻痺していた心が少しずつ現実に戻ってきて、
手の震えが止まらなくなってきた。どうしよう。どうしよう。
とりあえずこの近くに泊まれるホテルを探して、早いところ新しい家を見つけなくては生活も立て直せない。
今朝は楽しく、あのお気に入りの家具をどう配置したら素敵かななんて考えてたのに。
もうあの家具は燃えてしまった。二度とあの部屋で寛ぐこともないんだ。
一日に、大事なものをふたつもなくしてしまった。
ひとつはお家。もうひとつは銀時に愛されてるという自信。

「名前!」

アパートから当ても無く歩いていたら、後ろから切羽詰った声で呼び止められた。
振り返るなり強い力で抱きしめられ目を丸くする。

「おい無事か、どこも怪我してねえか!? ニュースでお前んとこのアパートが全焼したっつーから心臓止まるかと思った……」

銀時はすごく汗をかいて、息を切らしていた。
だというのに私は、きっと火事にあったのが月詠さんでもお妙ちゃんでも、今と同じように心配してたんだろうなと、
とても可愛くないことを思ってしまう。

「銀時、私は無事だよ。ありがとう」
「疲れたろ、とりあえず家にこい」
「ううん、ホテル探さなきゃいけないから。不動産屋さんも当たらないと」
「んなことしなくても、もう家で一緒に暮らせばいいだろ、泊まってく時用の歯ブラシも着替えもあんだからよ」

こういうことでもないと、銀時は一緒に暮らそうだなんて私に言ってくれなかったに違いない。

「いい。迷惑だろうから」
「こういう時に迷惑も何もねーんだよ」
「でも行かない」
「大丈夫かお前、なんか変だぞ。俺と同棲したかったんじゃねぇの?」

頑なに首を横に振る私をただただ心配そうに見つめ、汗ばんだ手で頭を撫でてくれる。
優しい。とても大きな手。

「私はしたかったんだけど、銀時はそうじゃなかったんだよね。だからだよ」
「わけわかんねーこと言ってねぇで行くぞ」

疲れきってしまっていた私は、ぐいっと私の手を掴んで引っ張る銀時にもう抵抗することもできなかった。



「なあ」
「……なに?」

和室は暗く静まり返っている。
私は銀時の隣に敷いた布団の中で、抱きしめようと腕を伸ばしてきた銀時から顔を背けるようにして、
ずっと瞼を閉じて色々考えていた。
これからのこと。銀時のこと。

「結婚するか」

呆れた。心底呆れた。
銀時はあのドッキリから何も変わってない。
きっと私が銀時の恋人だから、火事で何もかもをなくしてしまって可哀想だから、
自分がしたいという意思などではなく、私の為に、同棲、結婚までしてくれようとしてるのだこの男は。

「突然なに。私が気落ちしてるからそういうこと言うんでしょ。そういう風にプロポーズされて私が喜ぶと思うの」
「急にどしたよオイ。名前らしくねえ、するするーっつって喜ぶかと思ったのによ」
「色々ショックなことが多すぎたんだよ」
「確かに火事はショックデケーよな。けどお前自身に怪我はなかったし、これからなんとでもなるさ」

俺もついてる。そう言って銀時は布団から出ていた私の肩にそっと触れてきた。
布団の生地が擦れる音がして、銀時が動くのがわかる。
ふーっと安堵のような吐息と共に、銀時は私の身体を後ろから抱きしめてきた。

「同棲も、結婚もしない。今のこのタイミングでそんなことしたら、銀時が後悔するの目に見えてるもん」
「後悔なんざしねぇよ名前とならな」
「……銀時は優しすぎるんだよ」

だからその優しさを私への愛情からだと、勘違いしちゃいそうになるんだよ。
たまちゃんの話を聞いててよかった。
そうじゃなかったら、馬鹿な私は銀時のプロポーズを飛び上がらんばかりに喜んでいただろう。

「今日は泊めてくれてありがとう。明日には家を見つめてくるから」
「俺ァよ、生半可な気持ちで結婚しようなんて言わねぇよ」
「嘘ばっかり。聞いたよたまちゃんから。月詠さんやお妙ちゃんとかと同棲してたんだってね。あと同時進行で結婚前提のお付き合いしてたこと」

ピシリ、と面白いくらい銀時の身体が硬直した。
思い出したくないトラウマなのか、私に知られたくなかったのか、どっちだろう。

「私、恥ずかしくなっちゃって。そんなことも知らずに銀時に断られても何度も同棲したい結婚したいなんて」
「いやいや、それとこれとは話が別だからね……」
「銀時は過去に他の女の人たちに自分から言い出してたのにね。私は火事でも起こらない限り言ってもらえなかったんだなって」
「なあちょっと聞いてくんない? なんでそんな抑揚無く喋ってんの。てか俺の声聞こえてる?」
「みじめでたまらないんだ。だから顔も見れない。ごめんね、気を使わせちゃって」
「謝るなら俺の言葉聞けって!」
「そもそも私と付き合いだしたのも、私がしつこくしてうるさかったから銀時が根負けしたんだよね。それなのにこんなことになって私迷惑かけすぎ」
「おおおおおい!!!」

ふが、と銀時の手のひらで言葉が塞がれた。
いーから話を聞きなさい! と耳元で低く囁かれる。

「確かに、確かにだな、俺はあのババア共にハメられて、つっても身体はハメてねぇよ!? 騙されただけだよ!? 同棲やらなんやらしたさ」
「ふが、ふがが」
「喋んな。でもな、ありゃお前と出会う前の話だろ。俺はさ、名前と付き合うようになって、結婚っつーもんを真剣に考えるようになったんだよ」
「………」
「男らしく、ビシッと俺の嫁になれ! ってな、言うよ。いいてーんだよ、自分から」

ぎゅう、と抱きしめる力が強くなる。ふさがれていた口から銀時の手が離れて、口から空気をいっぱい吸い込んだ。

「っつーのにお前ときたらなんだ、ポンポン軽々しく言いまくってよ。おかげでいつも俺から言うタイミング逃しまくっちまってたじゃねぇか」
「え……ええ……うそだあ、そんな」
「前は、誰と結婚しようがそれなりにやってけるだろうって、相手に希望も無ければ夢もねぇ結婚観を持ってたよ」

銀時の口調は柔らかい。
私を落ち着けるように、耳の後ろに唇を寄せながらゆっくり話す。

「でも名前は俺の手で死ぬまでずっと幸せにしてやりてえんだ。貧乏なのは我慢しろよ、けど金じゃ買えないものがお前との間にあるから」
「うん……」
「俺と結婚して一緒に暮らそう、名前」

銀時に抱きしめられたまま、なんとか身体をひねって向かい合わせになる。
暗闇でもわかるくらい、銀時の顔は静かで落ち着いていた。
決して出任せでも同情でもなく、揺ぎ無い私への気持ちから発せられた言葉だと信じることができる。

「…………はい!」

頷いて、笑って、今日あったショックからようやく自分が戻ってくるのを感じた。
そんな私を見て安堵したように微笑む銀時に今度は自分から抱きついたら、
信じられないくらい幸せな気持ちになった。







□お相手は銀さんで、ヒロインは、日頃から銀さんを追い回すような銀さん大好きっ子。
 昔同棲しよう!と言って断られたのに、本編の銀魂女子6人と同棲したことを知り、
 私のことそんなに嫌いなんだと思い、身を引くヒロイン。
 それに気づいて銀さんが、わわわ!と焦ってしまう切甘

□銀さんのことが大好きなネガティブ?思考の
 ヒロインが月詠さんにヤキモチやいちゃうお話
 片思いからの両思い(甘々)




匿名さま、花香さまリクエストで書かせていただきました!
少しリクエストの内容とは違ってますすみません。
こういう系の話はすっごーーーーーく大好きなのですが、
私の筆力で素敵なリクエストを台無しにしていないか不安でたまりません。ハラハラ。
書いてる時はとても楽しくて楽しくて、ちょっと長くなってしまいました。
読み辛かったらすみません…!
とっても嬉しいリクエストどうもありがとうございました!

2017/05/23 いがぐり

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