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企画
約束と予感(坂田)

平日の遊園地は暇そうな若者や、仕事が休みなのだろうか、数組の家族連れ、べったりくっついたカップル達がばらばらといて、
人気のある遊園地だというのに休日の混み具合が嘘のように今日は程よく空いている。



普段はよく死んだ魚の目のようだと言われる銀時の瞳だが、
今は静かに濁りの無い眼差しでじっと名前を見つめていた。

「……ゴメン銀さんちょっと今スゲー風で名前の声聞こえなかったからも一回言ってくんない?」

銀時の言葉に「声が小さくてごめんなさい!」とはにかんでパンフレットから顔を上げた名前は、
メリーゴーランドに乗りたいの、と言わんばかりのふわふわした幼げな笑みを浮かべ、

「ここのお化け屋敷、今やってるホラー映画とコラボしててとっても怖いんですって! 入りませんか坂田さん」

と大きめの声で言い、キラキラ眩しい期待の眼差しを銀時に惜しみなく投げかけてくる。
ああ、と銀時は額に手を当ててぐっと空を見上げた。
これがメリーゴーランドだったら喜んでお供する。なんなら着ぐるみショーだって付き合っていい。
なのによりによってなんでお化け屋敷ィィィ!と銀時は言うに言えない心の葛藤を脳内にこだまさせる。

自分の言葉に反応が返ってこないばかりか、空を仰ぐ銀時を見て名前は少し顔を曇らせた。
立ち話で、そういえばとふと思い出したように、遊園地のチケットがあまっているからよかったら一緒に、と銀時を誘ってくれたのは名前なのだ。
気の乗らない場所へ連れてきてしまったと申し訳なさを感じてしまった顔に違いない。
そう瞬時に察知した銀時は「いや、違うからね!?」と名前に向かってぶんぶんと両手を横に振る。

「スゲー怖いっつーなら名前は大丈夫かって心配になっただけだかんね!」

銀時の言葉に、心からほっとしたように顔を緩め、名前は手をぐっと握ってにこっと白い歯を見せた。

「坂田さんお強いから、もしお化けが襲ってきてもやっつけてくれそうで心強いです」

名前の何の疑いも持っていない笑顔は、銀時のことを全面的に信じ、頼りにしてると言っていた。
幽霊やお化けの類が死ぬほど苦手な銀時だが、名前の前でみっともないところは見せられないと震えそうになる身体になんとか活を入れる。

「よ、よよよよーし、お化けでもバケツでも何でもかかってこい! 俺が全部やっつけてやっからな!」

気合を入れたところでドサクサに紛れ名前の手首を掴み勢いよく歩き出す。
不自然だったか。いや、お化け屋敷と言えば男が女性をエスコートしなくてどうする。
っはー、名前の手首細っせーな……!
などと銀時は心の中でダラダラ言い訳やらを誰に向かってでもなく垂らし続ける。

「あの、坂田さん……」
「あ、悪ィ、」

やはりいきなり手を掴むのはやりすぎだったかと、いきなり我に返った銀時は、頬を赤らめながら名前の手首から手を離す。
が、名前はそっと銀時の手のひらに自分の手を重ねると、ふふっと弾むように笑って言った。

「そっちは出口ですよ!」



太陽が元気よく緑を照らす外から薄暗いお化け屋敷へ足を踏み入れると、
冷房でも効いているのだろうか、銀時の右腕の肌に鳥肌が立つくらいの冷気を感じた。
閉塞感のある通路、開けた場所があってもそこにはお化けが待ち構えている。
ホラー映画とコラボしているらしいが、銀時はテレビでもその映画のCMが入ると耳を塞ぎ目を閉じてじっと心の中で念仏を唱えているので、
どこがどうコラボしているのかはさっぱりわからない。
しかし迫力は十分あった。ありすぎた。

「結構本格的ですね、わ、あれ主人公を襲うジャイソンXじゃないですか?」
「………」
「坂田さん?」
「? ああ、なかなかじゃね? この落ち武者なんてよくできてやが……ンガッ!」

声に反応する人形なのか、ギロリと目玉だけ動かした等身大の血塗れた人形に、銀時は叫びだしそうになる自分の口を何とか塞ぐ。
その際に名前と繋いだ手にも力が入ってしまい、ぎゅうっと細い手を強く握ってしまった。

「!」
「わり、痛かったよな、ちょっとばかし驚いちまって」
「大丈夫、私も今のところビックリしました」
「人形のくせにいきなり目ぇ動かすなんざ生意気だよな」
「え?」

名前が薄暗い中でもよくわかるくらいきょとんとした目を銀時に向けてくる。

「わたし、いま腰の辺りを撫でられて……そういう演出なのかなって……」

銀時の恐怖心は一気に吹き飛んだ。激しい怒りと警戒心を沸き立たせ、表情を引き締め周囲を見回す。
どんなお化け屋敷だって、客の承諾もなしに接触行為をするなんて聞いたことがない。
名前は痴漢されたのだ。

「そりゃ演出じゃねェな。……名前、俺の後ろから動くんじゃねえぞ」

壁と自分の背中で名前を護るように立つと、銀時は腰に下げた木刀に手を沿えいつでも抜けるようにしながら薄暗い周囲に気配を探す。
びっしりと作り物の蔦が飾られた方向で、そろりと何かが動く気配がした。
薄暗さに慣れた目に、ひょろりと痩せた、ミイラのような男が映る。
客や従業員ではないことは、男の一刻も早く逃げなければと焦る気配と、
慣れたように非常口へと迷い無く向かう動きですぐわかった。
銀時はひゅっと短く息を吸い素早く勢いをつけ駆け出すと、
逃げようとする男の首根っこをまるで子供と追いかけっこでもしているかのようにいとも簡単に捕らえた。



男はお化け屋敷の内部を熟知している遊園地の元従業員で、時折お化け屋敷に忍び込み何も知らない女性を触っていたらしい。
銀時と名前は男を責任者と警察に引渡し、あれこれ捜査に協力してるうちに遊園地の営業時間がおわってしまった。

「せっかくきてくれたのに、すみません。私のせいでろくに乗り物にも乗れずじまいでしたね」
「名前が謝るこっちゃねーだろ。俺は名前といられて楽しかったぜ」
「そう言っていただけると嬉しいです。あの、ありがとうございました」
「なに、なにかお礼言われるようなことしたっけ俺」

夕方も17時に差し掛かると、辺りに夜の気配が差し迫ってくるのを肌で感じる。
遊園地の閉園を知らせる淡々としたメロディーを聴きながら、銀時と名前はゆっくりと
遊園地と最寄駅を繋ぐ明るい色に塗装された広い道を歩いていた。
来た時は楽しい予感に胸躍らせる色に見えたのに、
帰り道で見るととてもものさみしく感じる。

「お化け屋敷でのこと、嬉しかったです。坂田さんは、やっぱり強くてかっこいい」
「ああアレか……ついカッとなっちまって」
「優しいですよね坂田さんて」

銀時と名前は、今まで何年も単なるご近所さんという関係から一歩も外れてこなかった。
インパクトのある出会いをしたわけではない。
いきなり距離が縮まるような出来事が起こった事もない。
新八と出会う前から、神楽と出会う前から、名前はずっとご近所さんだった。

おはようございます、とゴミ捨て場で交わす短い挨拶。
こんばんは、と仕事帰りの名前と酒場へ出かける銀時が道ですれ違う際に自然と浮かぶ笑み。
派手な美人ではない。でも銀時の心臓は名前を見るたび大きく脈打つのだ。

長い時間をかけて少しずつ恋愛感情が育っていったような気がする。
気がついた時にはもう、銀時は名前のことが好きだった。

「なあ、俺達こんな長く一緒にいるの初めてだよな」
「そうですね、知り合って結構長いのに」
「今日はこんなことになっちまったし、仕切りなおしに近いうち映画なんてドーデスカ?」

なるべくサラッといいたかったのだが、緊張のためかどうしても語尾が不安定になってしまう。
そんな銀時を見て、名前は目をまん丸にして、言葉も出ないといったように足元へ視線を落とした。
引かれたか!? それともウザがられた!? と心臓を凍らせた銀時だったが、
地面からばっと顔を上げた名前は、今日一番の笑顔を浮かべていた。

「はいっ! 映画行きたいです、坂田さんと」

銀時と名前は視線を重ねて笑いあう。
ご近所さんではなく、一人の男として、名前に見つめられている気がした。
銀時の手の甲に、名前の手の甲が触れる。
お化け屋敷で繋いだ名前の手は、どこまでも繋いでいられるくらい気持ちのいい温度をしていた。
頭でごちゃごちゃと何か考える前に、ごく自然に二人は手を繋ぎあう。

予感がした。
今回のことで名前と話す会話が天気やスーパーの特売のことだけじゃなく、
もっと中身が増えてくるだろう。
映画だけじゃなく、これからもっと、名前とどこかへ行くようになる。
触れるのも、手のひらだけじゃなく、頬にだって唇にだって内面にだって、いつか触れたい。

「名前はいつもどんな映画観てんの? 何か観たい映画あんならそれにしよーぜ」
「あんまり映画に詳しくなくて……あっ!」

名前がとってもいいことを思いついたという顔で銀時を見上げてきた。
銀時は呼吸も忘れてその笑顔に見とれる。

「せっかくだし、今日のお化け屋敷でコラボしてたホラー映画にしませんか!?」

今まで見たこともないあまりにも無邪気な、嬉しそうな、ワクワクした顔で提案してくるものだから、
銀時は嬉しいやら泣きたいやら、複雑な心境になりつつ精一杯の笑顔で頷くことしかできなかった。








□銀さんとホラーアトラクションに行く話
 銀さんは怖がりだけど、夢主ちゃんの前ではバレないようにカッコイイところを見せようと頑張る話

□銀さんの片思いかと思いきや実は両思いな甘いお話
 お互いにまだ少し距離がある感じで、銀さんと言うよりは坂田さん
 ヒロインちゃんはほわほわ可愛らしい女の子。出会いやヒロインちゃんの職種等はお任せ




彩さま、しお様リクエストで書かせていただきました両片想いの銀さんの話でした〜〜!
大変お待たせいたしました!
銀さん視点なので、両片想いっぽくないのですが、ヒロインの名前さんは銀さんのことしっかり好きなので、
きっと来月あたりには二人付き合いだすんじゃないでしょうか!
銀さんがホラー映画で即死しなければ(笑)
素敵なリクエストをどうもありがとうございました♪

いがぐり
2017/05/07


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